上高地から槍ヶ岳山荘までの全行程が22kmで、歩行距離で言えば槍沢ロッジまでが大体2/3くらいだ。ここまでは高低差も300mくらいで、かなり快調に歩を進めることができた。しかし、ここまではウォーミングアップみたいなもので、ここからひたすらの登りが始まるのだ。
僕らはここで昼食をとった。相棒は昼食を車の中に忘れていたことに気づき、大いにショックを受けていたが、気を取り直して登り始めた。
大曲を過ぎると、突如として視界が広くなり、目の前が明るくなった。僕は、この瞬間が好きだ。ここから勾配は徐々に急になり、相棒との会話の量も減り、黙々と登り続けることになる。水場がいくつかあって、こまめに水分補給をした。ピーク時には延々と人の列が続くらしいが、僕らが登った日は、台風が接近していたこともあり、ほとんどストレスを感じることなく登ることができた。
この辺りになると、標高は2700mくらいだったか。槍ヶ岳の偉容が間近に迫るも、足場の悪い岩場をひたすらの登り続けて、一向に近づく気配がみえない。仲間は睡眠不足もあってか、高山病のような症状が出てしまい、僕らは頻繁に休憩をとりながら、ゆっくりと登り続けた。
もうちょいで、槍ヶ岳山荘・・。ここからが長い。相棒は、高山病のためか、何だか目が虚ろになっている。時折、声をかけながら、少しずつ登ってゆく。僕も足が棒のようになっていたけど、まだ余力はあった。引き返すことも相談したが、結局登りきることにした。
やっとのことで、槍ヶ岳山荘に到着。出発地の上高地バス停留所から約12時間かかったことになる。特に、最後の約200mを上りきるのに、4時間くらいかかったかもしれない。山荘宿泊客の中で、僕らはほとんど最後の到着で、クタクタではあったが、すぐに夕食の時間となった。意外にも、食は進む。何もかもが美味しい。一方、相棒は珍しく食が細り、何も食べたくないという。
翌朝8時頃、身軽な装備で山頂をめざす。正直、こんなところ登れないと思ったが、若い女の子や高齢の登山者もグイグイと登っているのを見て、意を決した。鎖場の鎖は霧雨のためすべりやすく、傾斜はきつくて数百メートル下まで一直線につながっている。しかし、三点確保を怠らなければ、案外危険は無い。鎖や梯子を互いに譲り合いながら、30分くらいで山頂に到着した。体力的には、ほとんど負担はないが、とても長く感じた。山頂で、相棒とがっちり握手。
山頂にはほこらがあって、登頂を終えた人は必ずここでこれまでの登山の無事を感謝して、下りの安全を願う。
山頂では、ものすごい速さで雲が過ぎて行くので、一瞬にして視界が晴れたり、曇ったりしていた。この日は特に風が強く、ずっと立ってはいられなかった。幸運なことに一瞬頂上付近の雲が消えたときにブロッケン現象を見ることができて、山頂にいた皆がオオッとどよめいた。
山頂直下からみると鎖場はこのように見える。特に、最後の長い梯子が怖い。上から降りてくる人を待っている間、強い風に吹き付けられ、狭い足場では何とも心ともとない。登山初心者の僕は、もう二度と登るか!と思ったが、終わってみれば快感しか残らないから不思議だ。
槍ヶ岳山荘。僕らが宿泊した日は、事前の天気予報のためか、連休にも関わらず比較的空いていて、一人布団一枚を使って眠ることができた。外では、テント泊をしている人たちもいた。深夜、猛烈な腹痛に襲われ、のたうち回った。外に出るが、雲が出ていて、ほとんど星は見えない。それでも、ちょっと高めではあるが、暖かいコーヒーはとても美味しかった。
最後に、槍ヶ岳山荘付近から写真を一枚。
この後、雨のなかひたすら下り続けた。帰りは上高地までおよそ9時間弱くらいかかった。
上高地に降りたときには、既に辺りは真っ暗であった。この日の晩には、白骨温泉で身体をゆっくりと休めた。