Trade-off Hypothesis of Schizophrenia
Jhonatahan Kenneth Burns.An Evolutionary theory of Schizophrenia:Cortical connectivity,metarepresentation,and the social brain.Behavioral and Brain Science(2004)27,831-885
Jonatahan Kenneth Burnsは南アフリカの精神科医で、近年の認知科学、機能画像によって得られた膨大な知見をふまえてSchizophreniaの進化論的仮説について述べている。Schizophreniaのdisconnectivity hypothesisなどの認知モデルや動物行動学との整合性をとるように十分な気を使った内容である。内容自体は平易だったが、量が多くて大変だった。以下、要約。題して、"Trade-off hypothesis"。
Schizophreniaの進化論的説明はCrowらの大脳皮質のlateralizationによる仮説が有名である。彼は15〜10万年前のヒトがアフリカ大陸から拡散する前後の時期に環境・遺伝的な何らかのイベントによって大脳皮質の機能特化speciationが生じた結果、大脳のlateralizationと言語能力を手に入れ、このような進化上のイベントがSchizophreniaの成立に必要な神経回路および認知機能の素地を提供したのだと述べる。CrowはSchizphreniaの進化論的なoriginを大脳のlateralizationと言語機能の獲得にlinkさせて考えており、したがって、Crowの仮説においてはSchizophreniaはヒトに固有の認知領域を侵す疾患と捉えらることになる。また、Schizophreniaのように集団を含めた環境においてmaladaptiveと考えられる疾患が現在までコンスタントに有病率を保っている要因として、Crowらを含めた多くのevolutionary psychiatristsらがShizophrenia〜Schizotypicalという疾患スペクトラムに含まれる疾患特性が種の保存に関わる何らかの利点advantageを有しているのだと唱えている。しかし、検証し得る利点としてSchizophrenia〜Schizotypicalの"reproductive advantage"を調べた研究では、このような利点の存在を支持するエビデンスは一切得られていないのである。また、Crowらの仮説はSchizophreniaがworld wideに一定の有病率を維持している事実の説明にはなっても、地理的に断絶した地域でパラレルに認知機能の進化やSchizophreniaという疾患群が生じたプロセスの説明とはならないという批判もある。
それでは、進化におけるSchizophreniaの源evlutionary origin of Schizophreniaは一体どこにあるのか?上記の流れを受けて、著者は自説を展開する。
著者の立場の大枠は以下のように要約される。すなわち、Burnsは脳の神経回路の中でも特にDLPFC、OFC、ACC、superior medial temporal cotex、amygdala、parietal assciation cortex、occipital association cortexを含むfrontotemporalおよびfrontoparietal connectivityを"metarepresentation(representation of representationのこと。心的イベントの推論に関わる。)"の形成やTheory of Mindなどに関与する"Social Brain"の領域であるとし、多くの心理学および機能画像所見を挙げてSchizophreniaをこのSocial Brainの領域の神経回路のconnectivityが障害されたものと位置づける。その上で、Schizophreniaはsocial brainなどを含むヒトの認知機能の進化に伴って不可避的に生じた二段階の"trade-off"(「進化の代償」と訳せばいいのだろう)として捉えることができるのだと主張する。
最初のtrade-offは1600万年前〜200万年前にさかのぼる。この時期にヒトのsocial congnitionや集団生活に適した知的な判断を制御することを可能にした大脳皮質のinterconnectivityの複雑化と神経回路の特化が加速した。これらの変化は解剖学的な拘束条件(脳容量など)もあり、heterochronicなプロセスによって生じ、結果としてヒトの脳は延長された成熟過程(幼形成熟neoteny,hypermorphosis)を得ることができるようになったが、その分だけ遺伝子の複雑な相互作用の影響や遺伝子の傷害による影響に対する感受性が高くなった。この高められた感受性がsocial congnitonの進化に伴うtrade-offである。このプロセスはサルでも同様に生じたと考えられるが、ヒトに比べるとはるかに貧弱であり、おそらくこのような理由でヒト以外の霊長類にpsychosisが見いだされ得ないのであろうとBurnsは述べる。
二つ目のtrade-offは15万年前〜10万年前に各個体に起きた遺伝子の変異が上記のsocial brainの神経回路における異常なconnectivityをもたらした結果として生じた代償である。このような遺伝子の変異は多様性に富んだもので、mildなphenotypic chandeを受けた個体では創造性やiconoclastic thinking(因襲打破)につながり、何らかの生存および種の保存上のadvantageを有した可能性がある。しかし、上記のように少なくともSchizphrenia〜Schizotypicalスペクトラムにおけるphenotypeがreproductive advantageをもたらしたというエビデンスは全く得られていない。Schizophreniaが自然淘汰を耐え抜き現在まで存続している要因としてCrowらを含む多くのevolutionary psychiatristsのようにSchizophreniaの関与遺伝子群自体が何らかの生存上の利点(heterozygous advantage)を有すると考えるのではなく、著者は別の可能性を指摘する。たとえSchizophreniaの成立に関与する遺伝子群がreproductive advantageを有さずとも、皮質の複雑なconnectivityの形成に関与する遺伝子と近接的な距離にあって、しかもこれらの調節遺伝子が霊長類の進化において何らかの利点をもつadaptive geneであった場合、Schizophreniaの成立に関与する遺伝子群がmaladaptiveであっても次世代に存続する可能性が高くなる。Burnsはこれを”pleiotropic model”と呼ぶ。
BurnsはSchizophreniaがこのようなヒトの認知機能と大脳の系統発生および個体発生上の進化に必然的に伴うtrade-offによって疾患生成の素地を提供され、維持されているのだと主張する。
ちなみに、Jerriosnらが1970年代に進化の過程における脳容量の拡大がヒトの認知機能の獲得をもたらしたと唱えたが、Hallowayらはこれに異を唱え、認知能力の進化において脳容量も重要だが脳に内在的なシステムの再組織化reorganizationの方がより重要なのだと唱えた。このようなHallowayらの考えを支持するデータとして、ヒトの脳では灰白質よりも白質の方が相対的に拡大しているというHofmanの観察や、11種の霊長類の脳の構造をMRIで計測比較したところ、ヒトの側頭葉は予想されたよりも大きい容量を示しこのような相対成長からの乖離は白質において顕著であるというRillingらの報告、同じくRillingによるヒトの脳では相対的にintrahemispheric connectivityは増えているが、interhemisphric connectivityは減っているという観察を挙げている。すなわち、ヒトの認知機能、特にBurnsの言うSocial Brainの獲得にとって大事なのは脳の容量というマクロな再組織化ではなく、脳内のPFCを含むintrahemisphericな神経回路網の再組織化であり、Schizophreniaはこのような進化上の脳の再組織化に伴うtrade-offとして生じたものなのだという。(つづく)
今日はここで力尽きる。続きは次回にまとめよう。
ちなみに、今日は大晦日なんだ。知らなかったとは言わないが、あっという間だったなあ。2005年最後の日は山梨の温泉に入り、富士山を眺めて、勉強して過ごした。帰り道の凍結道路でスリップして山に激突し車が壊れたが、大惨事にならなくてよかった。冬の富士山は何度見てもかっこよかった。
今日の音楽:Mental Remedy"Just Let Go"Jephte Guillaumeの"The Prayer"で使われている美しくて追憶を加速させるピアノのフレーズだけを抽出したトラック。フレーズにのっかって色んなことが思い浮かぶ。今年は悪い年じゃなかったと思う。
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