Evolutional origin of Schizophrenia
Jhonathan Kenneth Burns.An Evolutionary theory of Schizophrenia:Cortical connectivity,metarepresentation,and the social brain.Behavioral and Brain Science(2004)27,831-885
(つづき)Evolutional origin of Schizophreniaは何処にあるのか?
Crowらは、言語能力の獲得と大脳のlateralizationを素地としたSchizophreniaの進化論的説明を行っており、Schizophreniaはホモサピエンが分岐した後の比較的最近の年代における霊長類の脳の機能の特化speciationを基盤として生じたとしている。
しかし、近年の機能画像研究を通して系統発生的に人よりも古い大型類人猿(オラウータンやチンパンジーなど)でも大脳(特に側頭平面)のlateralizationが見いだされること、activation-studyなどにおいて類人猿でも前言語野ともいうべき脳領域が確認されていること、チンパンジーの言語能力の研究などから、広い意味での大脳のlateralizationと言語能力の発展はCrowらが推測するよりもかなり古い起源を有しており、系統発生的には1800〜1600万年前にテナガザルが他のヒト科に属する種と分かれた直後の時期と推定されている。前回も書いたように、BurnsらはSchizophreniaは脳・認知能力の進化に伴う二段階のTrade-offとして生じたと唱えており、認知モデルとしてSocial Brain領域のdysconnectivityを取り上げ、疾患遺伝子の世代間伝達機序としては"Pleiotropic model"を提唱している。すなわち、maladaptiveな疾患遺伝子であっても生存上有利な遺伝子群と連動している場合には、次世代に伝達される可能性が高くなるというモデルである。Burnsは近年の潮流に沿う形でSchizophreniaをneurodevelomental disorderと位置づけた上で、このような遺伝子群として神経発達のタイミングやパターン(軸索の進展とシナプス形成、刈り込み、幹細胞の分化、遊走、アポトーシス)に関わる調節遺伝子群を有力視している。言い換えれば、ヒトの脳の"heterochoronic"な発達を調節する遺伝子群との結合関係によって、Schizophreniaに関与する遺伝子群が存続するというのである。
これを個体発生でみるとどうなるか?上記の"heterochrony"はErnst Haeckelによって提唱された概念で、大まかには「系統発生における祖先と比較した際に器官発生・成熟のタイミングに変化がみられることで、具体的には個体発生のプロセスで器官の成熟過程が加速および減速される現象」と定義づけられている。Ernst Haeckellらはヒトの高度な認知機能の獲得をheterochronyによって説明している。これと似た概念としてLouis Bolkによって提唱された「幼形成熟neoteny」という概念もあるが、現在でも議論の多い概念である。Gouldはかつて「ヒトは本質的に幼形成熟である」というスローガンを唱えたが、現在はこれを拒絶する科学者が多い。また、Lockらは各表現型ごとに固有の成長率を有しており成熟は加速されたり減速されるという、neotenyから一歩進んだ"mosaic evolution"という考えを提唱している。著者はこれらの乱立するモデルを踏まえ、ヒトの個体発生では脳の成熟段階におけるプラトーへの到達速度が遅らされる(neoteny)のではなく、むしろ個体発生のプロセスが系統発生において連続的に延長されてきたのだ(phyletic extension of ontogeny)というMcKinneyらの"sequential hypermorphosis”という考えを取り入れている(neotenyとhypermorphosisは微妙な違いではあるが、単に遅れるというneotenyに比べてhypermorphosisの方がより積極的なプロセスであるということが重要らしい)。このような機序によるシナプス形成やリモデリング期間の長期化はネットワークのconnectivityの複雑さと可塑性を増加させ、環境からのエピジェネティックな要因への感受性を高めるのである。これによりヒトは言語能力やSocial Brainによって遂行される社会的認知能力を大幅に洗練させることが可能となったのだが、その代償trade-offとしてSchizophreniaが一定の割合で出現することになったのだというのが著者の主張である。
以上が大体の要約。以下、感想。
この論文は検証不可能なspeculationや引用が多いし、Burnsの意見に全て賛同できるわけでもない(特にSchizophreniaをSocial brain領域の疾患と絞るあたりが。僕はもっとglobalなconnectivityの問題だと思う)のだけれども、Schizophreniaの進化論的な起源について活発な議論が現在進行形で行われていることは分かった。特に機能画像や最近の認知心理学の進展はサルやチンパンジーなどの類人猿にも拡大され、これらとヒトとの比較研究からかなり正確なことも言えるようになったようだ。この分野は面白い。進化論は再現性が無いという批判をよく聴くし、僕もそう思っていた。だからこそ論理展開が重要になる。この論文では多少乱暴な論理展開もあるが、異なる分野の知見を統合させてゆくアプローチは嫌いじゃない。「デルフォイの神託」(よく言ったものだ!)と言ってSchizophreniaにまつわる多くの疑問を神棚に祭り上げるよりも、いろいろと考えてみた方が面白いのである。
付け加えると、著者は近代以降ヒトの思春期が後退し続けたために、Schizophreniaの成立に重要な神経発達の時期に受けるepigeneticな影響が減少した結果、paranoid typeを除く重症(原著ではmalignant)のSchizophreniaが減少したのだと書いている。症状プロフィールの成立プロセスを神経システムの発達・リモデリングと環境要因という横・縦断的な観点から観察するという点は興味深い。もしかしたらそういう研究もあるかもしれないので、探してみよう。また、神経システムの発達期におけるepigeneticな要因が重要であればある程、Schizophreniaの治療だけでなく発症阻止preventionという観点が重要になってくるだろう。
今日の音楽:Richie Hawtin"DE9/Transmissions"(2005)
これは凄い。彼のデスクトップにはおそらく数十から数百のループがあらかじめ用意されており、その中から数個の最適なループが選択され、寸分の狂いも無く同期しては消えていく。ループの組み合わせのパターンと時間的なプロセスだけがあらゆる音像を創出してゆく。テクノ、つまり絶対に狂わないリズム。だから、僕たちは全幅の信頼をもって今を流れてゆくループに身を委ねることができるのだ。そして、いつの間にか僕たちは来るべきループを予測し始める。しかし、僕らにとって74分という時間は短かすぎる。永遠に続いて欲しい、と思うような音楽。
Neural synchronyとのアナロジーで考えれば、いささか硬質でずっとシンプルではあるけども、これはまさに脳の中で神経システムがやってることじゃないか。Richieがやっていることがシステム化され自律的にループを選択するようになれば、まさしく自己組織化する音楽ということになるのかもしれない。
東大薬理の池谷さん(海馬の本で有名な人。多分、おそろしいほど頭の良い人。)がSynfire Chainに関する論文で、"Cortical Songs"という用語を使っていたけど、Richieの奏でる音楽はそういう域に達している(ような気がする)。
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/132728/7952199
この記事へのトラックバック一覧です: Evolutional origin of Schizophrenia:
コメント