Spontaneous activity of the brain.1
脳の自発的な活動について。最近たまたま読んだScience誌の2つの論文が興味深かったのでメモ代わりに紹介。
まず一つ目。Tsodyks M, Kenet T, Grinvald A, Arieli A.Linking spontaneous activity of single cortical neurons and the underlying functional architecture.Science. 1999 Dec 3;286(5446):1943-6.
大脳皮質、たとえば視覚野などは視覚刺激が無い状況でも自発的な活動を続けていることはよく知られている。これらの自発活動spontaneous activityはしばしば確率論的stochasticな現象で、noiseや背景活動として捉えられることもあり、神経システムの活動における機能的な意味はほとんど分かっていないのが現状である。しかし、神経活動の同期現象などのように従来は無秩序と考えられていた自発活動にマクロな視点での秩序が隠れていたことが明らかにされており、自発活動=ノイズという単純な図式は徐々に疑いの目を向けられ始めている。
ArieliはIsraelの脳科学者。本論文を無理矢理に要約すると、「視覚刺激ありの条件と刺激なしの条件下でsingle unit recordingとreal-time optial imagingをネコの視覚野で同時記録することにより、single neuronの自発活動spontaneous activityの発火率が広範囲にわたるneuronal populationのongoing activityの内部状態に依存していること、これらの自発活動のspatial patternが外部刺激を与えられたときによって生じるevoked activityや方位選択性マップなどのfunctional architectureと類似していることを示した」論文である。
彼らはまず、ネコの大脳皮質におけるevoked activityからfunctional map(この実験の場合は方位選択性マップ)を同定した。さらに電位感受性色素を用いたreal-time optical imagingと複数のsingle unit recordingを同時記録することによって、同じ部位のneuronal population activityとsingle cellの自発活動の発火率との相関を解析した(real-time optical imagingは、電位感受性色素を用いてmembrane potentialの変移を計測する手法で、測定部位のneuronal population activityをほとんどreal-timeといえる時間分解能で記録することができる)。ここで、彼らは視覚刺激によって活動電位を生じた時間内におけるevoked activityの全記録を加算・平均化することによって神経細胞が最も高い発火率で活動する際の内部状態を定義し、preferred cortical state:PCSと定義している。このように導きだされたPCSのパターンは方位選択性マップと類似していることが予想されるが、実際にそのような結果が得られた。
続いて、彼らは統計解析(この辺の詳細はよく分からない箇所もあったが)によってneuronal populationのongoing activityはPCSに類似したパターンを有していることを示した。この結果は神経の自発活動は無秩序なプロセスではなく、方位選択性マップなどのfunctional architectureに依存していることを示唆している。さらに、視覚刺激の有無によらず同じ内部状態が見いだされたことは、外部刺激に対する皮質の反応が単なる感覚入力情報のflowによって決定されているのではなく、外部刺激によるflowがダイナミックにswitchし続ける無数の内部状態から特定の内部状態(PCS)を選択する役割を担っているのだと考えられる。さらに神経細胞の発火率が高くなると、よりPCSに近いパターンになることも示されており、活発に活動しているときの神経活動のパターンはPCSに収束していくという可能性も示唆されている(この意味でPCSはアトラクターと言えるかもしれない)。そして、繰り返すがこのPCSはfunctional architectureと非常に似ているのである。
著者は上記の結果から、自発活動は無秩序なノイズではなく皮質のネットワークと密接にリンクした特定のパターンを有する活動であり、究極的には何らかの機能的な役割を担っている可能性もあるのだというような考察を書いている。大体このような内容。日本語に難あり。
「環境刺激は脳があらかじめ無数に創出している内部状態の一つを選択するだけである」という可能性は面白いと思う。両立は難しい思っていたアフォーダンスと神経生理学が矛盾なくつながるかもしれないという希望がある。
また、自発活動自体は情報を担うcareerなのではなく、情報処理のmodulatorなのかもしれないという可能性もあるだろう。
今日は既に力つきている。続きはまた明日書こう。
今日の音楽:Richie Hawtin"DE9:Transition"(DVD)
連休を利用して自宅に5.1chサウンド+プロジェクターのヴィジュアルサウンドシステムを構築したので、この作品を改めて聴いてみた。2ch再生ではループ素材の時間的な同期しか体感できなかったが(それでもその精密さに驚いた)、5.1ch再生ではループの反復が空間的に同期していくのが体感できる。さらに音景とマクロに同期した映像もあるので、結局は感覚モダリティを超えて同期するのである。こんな作品を人工的に作り出すなんてRichieは恐ろしい。そんなものは、僕らの脳だけで十分なはずだ!
とはいっても、よくよく考えてみると同期は音楽の最も原始的な特性であるはずだ。オーケストラの多重演奏では異なる楽器が同期するし、バリ島のケチャでは人の声と太鼓が同期する。ダンスだって音とボディムーブメントの同期として捉えられる。この意味で、打楽器はchattering cellならぬchattring instrumentsと言えるかもしれない。原始的であるという意味でも海馬にアナロジーを感じてしまう。
ここまで書いて、脳の活動を音楽に喩える比喩はきわめて伝統的に繰り返されてきたことを思い出した。
これまで読んだ多くの本の中で、脳はオーケストラに喩えられていた。しかし、脳には指揮者もいなければ、楽譜だってないだろう。オーケストラには外部からの撹乱もない。内在的な拘束条件の下(暗黙のルール)、各奏者やときにはオーディエンスとの関係(掛け合い)の中で曲が展開していくのだろう。次の瞬間に何が起こるか分からない音楽。そういう意味ではオーケストラよりもインプロビゼーションなジャズとかケチャの方に近いかもしれないなあ、などと思う。
Tsodyks M, Kenet T, Grinvald A, Arieli A.Linking spontaneous activity of single cortical neurons and the underlying functional architecture.Science. 1999 Dec 3;286(5446):1943-6.
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