Information Integration Theory of Consciousness
ずっと探していたHiltonの「失われた地平線」を手に入れる。早速読んでみようと思うが、暇がない。Shangri-Laとは、Pakistanの北東部にあるカラコルム山脈の麓にあるフンザの谷のこと。
以前紹介した論文。再読しているG.M.Edelmanの"Wider than sky"の理解にも役立った。
以下、忘れないためにメモ。
Giulio Tononi.Consciousness,information integration,and the brain.Progress in Brain Research,Vol.150,2005
まず、Tononiの2つのテーゼから。
1.意識は膨大な情報を有する
我々は意識をもつことによって、膨大な情報にアクセスしている。ここでいう「情報」は、文字の配列や、ビット数と同義ではない。意識は、その瞬間の特定の状態だけでなく、他にも無数の状態をとり得る。つまり、意識は可能な無数のレパートリーの中から特定の意識状態が選択されているという意味において、膨大な情報量を有するである。ここで言う「情報」とは、システムがとりうる状態の時間的、空間的パタンのことである。Shannonの古典的な情報の定義、つまり「不確定性の減少」という情報の定義から考えても、意識が膨大な量の情報を有していると言える。
2.意識はシステムが情報を統合する能力に相当する。
しかし、意識は単に情報量が膨大なだけではない、とTononiは言う。我々は意識を体験するとき、それは必ず統合された一つの単体"whole"として体験される。逆に、体験された意識を、個別の要素に分解することはできない。それが可能であれば、 僕らは複数の意識の中心を有することだって可能になる。しかし、そんなことはあり得ないのだ。つまり、意識を意識たらしめるものは「情報の統合information integration」という特性なのだ。
たとえば、デジタルカメラのフォトダイオードは数百万に及ぶ要素(画素)がそれぞれある特定の状態(色)をとりうるという点で非常に大きな情報量をもつと言えるが、それらの要素は互いに影響を与えることがない。意識を生み出す脳のシステムはこのようなフォトダイーオードと同義のシステムではない。それは、それぞれの要素が互いにダイナミックに相互作用するようなシステムで、膨大な情報量を生み出しながらも、それらを統合することが可能なシステムである。
3.Information Integratin Theory of Consciousness(IITC)
では、システムのもつ情報の統合information integrationをという特性を、どうすれば客観的に評価することができるのか?
まず、システムの有する情報量は、従来の情報理論で
H=-Σ p(s)log p(s)
と表現される。Hはエントロピー、sはシステムの状態、pはある特定の状態をとりうる確率である。
ここで、システムが複数の部分集合から構成されると仮定して、いくつかの要素から成る部分集合(subset)Sを考える。
次に、このような部分集合Sを任意のやり方で2つの部分(part) A,Bに分割する。ここで、Aからのあらゆる入力に対してBがとりうるあらゆる反応を評価するために、effective information:EIを以下のように定義する。Aのとりうるエントロピーの最大値をA Hmaxとすると、
EI(A→B)=MI(A Hmax ; B)
ここで、MIは相互情報量(mutual information)を表す。つまり、
MI(A;B)=H(A)+H(B)-H(AB)
である(ここは、「脳の情報表現」参照)。
EI(A→B)はAがBに与え得るすべての因果的な効果で、EI(B→A)はその逆である。EI(A→B)とEI(B→A)はシンメトリックではないが、両方向の因果的な効果を加算することができ、
EI(A⇄B)=EI(A→B)+EI(B→A)
となる。つまり、EI(A⇄B)はAからBへおよびBからAへの可能な因果的効果のレパートリーである。
ここで、EI(A⇄B)=0 ならば、A,Bから成る部分集合Sは、情報統合量がゼロであることを示す。このようなシステムは上記のデジタルカメラのセンサ−に用いられるフォトダイオードが例として挙げられる。
一般的に、ある部分集合Sの情報統合容量information integration capacityを測定するためには、EI(A⇄B)が最小となるようなSの分割(MIB:minimam information bipartition)を求める必要がある。これを、MIB:A⇄Bとすると、Sの情報統合量は
Φ(S)=EI(MIB:A⇄B)
と表される。(ちなみに、single entityを表す"O(circle)" と、Informationを表す"I"を組あせ、情報統合容量としてΦという記号を採用している。)
システムの中の、あらゆる部分集合SについてΦを計算すれば、どのSが情報を統合することができ、またどの程度の情報を統合することができるのか、評価することができる。
ある部分集合が、自身より大きなΦ値をもち、規模も大きい部分集合S largeに含まれる場合、このような部分集合をS smallとして全て棄却する。最終的に、残った部分集合だけを"Complex"と呼ぶ。
つまり、Complexは「Φ>0、かつ自身がそれよりも大きな部分集合に含まれないような部分集合」である。
中でもシステム内で最大のΦをとるComplexを、Main Complexと呼ぶ。
Complexは、自身が含まれない要素から入力を受けたり、出力をもつとき、それぞれport-in、port-outをもつという。
システムの部分集合Sが、レパートリーの中のある特定の状態をとったとき、SはΦに相当する量の情報を統合したことになる。
Φは空間的、時間的スケールによっても影響を受ける。意識に成立に関連する時間的、空間的スケールは、Φ値を最大にするスケールである。そして、そのようなΦ値を最大にするスケールは、それぞれ皮質カラムおよび数百ミリセカンドである。
まとめると、システムはそのcomplexを同定する作業によって情報の統合能力を解析することができる。それぞれのcomplexは固有のΦ値をもち、これがcomplexの情報統合容量に相当する。
Tononiは、意識が情報の統合であるという意味において、意識の「主体」をあえて挙げるならば、システムを構成するmain complexであるとする。情報はcomplexの内部においてのみ統合されるという意味で、情報の統合としての意識は主観的で、私的で、また一人称的であるとする。complexを構成する要素のみが意識の成立に直接関与し、complexに含まれない要素は意識に直接関与することがない。
以上が、TononiのInformation Integration Theory of Consciousness:IITCの概要。
上記のIITCを応用して、脳の主要なサブセット(サブシステム)である視床皮質系、小脳系、上行賦活系、皮質入力系(網膜など)、皮質出力系、大脳基底核系について、それぞれΦ値を求めることによって、これらのサブセットがどの程度意識に関与しているかを評価することができる。
僕たちは、これらのサブシステムの構造特性について、かなりの詳細を手に入れている。re-entrant loopsによて結ばれた視床皮質系、局所的なloopをもつ大脳基底核系、多くのパッチがパラレルに活動する小脳系など。これら、サブシステムの構造特性をモデル化することによって、大まかなΦ値を産出することが可能である。
Tononiは、これらを詳細に解析しているが、ここには書ききれない。
ちなみに、これまでの数多くの意識の仮説では、「情報」という用語の定義を曖昧にしたまま展開したものが多かったのだが、Tononiは「情報」を「神経活動の時空間的パタン」とはっきり定義して、議論を進めている。
(つづく)
最近の音楽:Phalao Thanders"Love is everywhere"(LP)
spiritualな音楽は色々とあるけれでも、ファラオはその極北。
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コメント
TononiのInformation Integration Theory of Consciousness:IITC
TKHT君、これ、紹介してくれてありがと。
このTheoryは 意識という現象の物理現象としての側面の本質を掴んでいる、そういう気がしませんか?
ぼくがかねて考えていたことを うまく科学的に表現してくれている気もする。
(ぼくにはよくわからないが)数式部分は わかる人にはとてもわかりやすいだろう と推測できる。
なべて、自然現象の「本質」というものは極めて単純だったりするからね。
投稿 R.T | 2006年3月 1日 (水) 10時40分
久しぶりに数学(のようなもの)に触れることになり、少々苦戦しました。原著論文では、Φに関する数式の部分はもっと丁寧に説明されていており、そこでは情報科学の基礎知識の無い僕にも理解できる内容でした。そして、そこで述べられていることはいたってシンプルなようです。
Φは意識の統合容量を表す指標ですが、この点から、Tononiは、自然界でありふれた「複雑性」という特性よりも、「統合」という希有な特性を意識の中核であると考えているのでしょう。そして、莫大なΦ値をもつcomplexという構造体は、Edelmanの言うDynamic Coreに相同する概念なのだと思います。
Tononiの話は、本当に大切なところをしっかりと押さえており、理論的な枠組みという点ではEdelamanの先を行っているような気もします。
何よりも僕が驚いたのは、この人は精神科医だということでした。
投稿 わるねこ | 2006年3月 2日 (木) 21時57分