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2006年4月 4日 (火)

Anil K.Seth ,Bernard J. Barrs:Neural Darwinism and consciousness.

久しぶりの更新。色んなことが同時に起こった1ヶ月だったけど、やっと頭が整理されてきた。

Anil K.Seth ,Bernard J. Barrs:Neural Darwinism and consciousness.Consciousness and Cognition vol.14:140-168,2005

Baarsらによる、EdelmanとTononiのNeural Darwinism→Dynamic core hypothesisの概説および検証。以下、前置き。

Neural DarwinismはGerald Edelmanが築き上げた神経システムの包括的な理論である。1978年にV.B.Mountcastleの編纂した"Mindful Brain"に収録された"Group selection and phasic re-entrant signalling:a theory of higher brain function."において初めて提唱された。

Neural Darwinismは、神経システムを選択システムとして捉えSelectionistの観点から描き出す理論。Neural Darwinismのルーツは、同じく選択システムとしての免疫システムにある。Selectionistの4つの教義(tenet)とは

1.Diversity(多様性)
2.Amplification(増幅)
3.Selection(選択)
4.Degeneracy(縮重)

である。Neural Darwinismにおいて際立って強調されているのが4番目の"degeneracy"であり、「複数の異なった物理的プロセスが同一の出力を産出するという特性」である。出力の側からみれば、その基盤となるプロセスを求める際に、固有解が一つだけではないことを意味する。典型的な例として、複数のコドンが同一のアミノ酸をコードしている事実が挙げられる。degeneracyはあらゆる生物学的システムに偏在する特性なのだとEdelmanは主張する。神経システムのような複雑系におけるdegeneracyは、多次元空間における準安定的なアトラクターを構成するものと考えられる。

Edelmanは、選択システムとしての免疫系に見いだされたこれらの進化論的特性を、神経系にも適用させ、Neural Darwinismという一大理論を発展させてきた。

Neural Darwinismの3つの主要な教義は、

1.Developmental selection: divesity of neural circuit by cell death,cell division etc.
2.Experimental selection: change in synaptic strength favoring some pathways over others.
3.Reentrant mapping: connections enabling spatiotemporal coordination of neural activity.

である。 Neural Darwinismの特に重要な概念は3番目の"reentry"であり、「複数の脳領域間の並列的かつ双方向的な神経回路を介した再帰的な信号伝達のプロセス」と定義される。reentryによって、神経活動のspatiotemporalな協調が可能となる。これらの特性をそなえた複雑な神経システムの活動を通して、システムの状態に随伴する無数のシーンが生み出される。つまり、意識とはこれら無数のシーンのレパートリーの中で、特定の状態を反映したものである。そして、クオリアとはこのような無数のシーンから構成されるN次空間(Nはシーンの構成に関与するニューロン群の数)における高次の識別能を反映したものだとされる。たとえば、赤色というクオリアはV1のmodalityのみによって生じるのではなく、V1を含むthalamo-cortical systemの活動の可能なあらゆるレパートリーの中の一つの状態を反映したものであるという説明がなされる。

ちなみに、以前、僕はEdelmanがExplanetory gapに答えていないのではないかと書いたが、EdelmanによればExplanetory gapは科学的な説明によって主観的な体験が生み出されるという暗黙の誤解によって生み出された疑似問題なのだという。Edelmanはこのような誤解を徹底的に糾弾している。

その後、EdelmanはTononiらとともに、意識という主観的体験の科学的な説明を目指し、Neural Darwinismから、Dynamic core hypothesisへと理論を拡張させてきた。また、検証可能な理論としてFunctional Clusteringという情報論的な概念を導入している。Tononiは、これをさらに発展させてIntengration theory of consciousnessという数学的なモデルを提唱している。
これらの理論は、当然ながら他の理論と重複する部分もある。また多くの論文で言及されつつあるが、これまでところEdelman以外のグループがNeural DarwinismあるいはDynamic core hypothesisを正面から取り扱った論文を僕は読んだことはない。


長々とかなり表面的な前置きを置いたが、この論文は、哲学者Barnard.J.BaarsらがNeural Darwinismの妥当性と課題について述べたもの。16項目におよぶ意識の特性(たとえばIntentionality,Sensory bindingなど)を列挙し、そのそれぞれに対してNeural Darwinismと脳科学の知見を照らし合わせながら、理論の妥当性を検証している。上記のEdelmanの理論が平易な表現で概説されているので、非常にわかりやすい。
ちなみに、Baarsは総じて好意的な評価を下しているようだ。

最近買った本:Patricia S.Churchland著、村松太郎訳「ブレインワイズ」(創造出版)
Patricia S.Churchlandと「認知哲学」のPaul M.Churchlandは夫婦。読むのが楽しみな本。伝統的哲学→分析哲学→神経哲学という系譜だろうか。

今日の音楽:Pop Ambient2003〜2006
毎年クリスマスを迎える頃に出されるノイズ〜アンビエント〜アブストラクトのコンピレーション。毎年楽しみな、水墨画のような音の景色。

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