いろいろ
夏休みはウイグル自治区〜パキスタンのノーザンエリアへと抜けるカラコルムハイウェイにほぼ決定。航空券さえとれたら、あっちでは何とかなるはず。結局、夏休みは4回連続でイスラム教地域に。
今週末は認知運動療法の学術集会に参加するため、福岡へ。そういえば、九州は初上陸。宮本省三先生、河本英夫先生、茂木健一郎先生、加藤敏先生などのそうそうたる面々の講演があるというから楽しみ。
認知運動療法のアプローチを、Schizophreniaなどの精神疾患へ応用させることは可能だろうか?僕はそうあって欲しい思うし、究極的には可能なのではないかとも思う。認知運動療法の話を聴けば聴くほど、そのように思う。身体的な関わりだけでなく、言語的な関わりさえもしばしば困難であるというところがSchizophreniaにおける最大の障壁となると思うが、少しずつ考えていきたい。
今週少しずつ読んだ論文をメモ
Pelaez JR.Towards a neural network based therapy for hallucinatory disorders.Neural Netw. 2000 Oct-Nov;13(8-9):1047-61.
幻覚(幻肢、統合失調症の幻覚、薬物による幻覚など)のニューラルネットワークモデルと、治療への応用について述べられたspeculativeな論文。内容はというと・・・省略。abstractだけで十分だと思う。
Seth AK, Izhikevich E, Reeke GN, Edelman GM.Theories and measures of consciousness: An extended framework.Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Jul 11;103(28):10799-804. Epub 2006 Jul 3.
EdelmanやTononiは意識という心的現象の「定量化」にこだわっている。EdelmanやTononiによれば、意識は系統発生的にgradualな現象であり、ヒトとミミズの意識の違いをできるだけシンプルに表現しようとしているのかもしれない。特にTononiはある程度の複雑さと統合性をそなえたシステムは、どのようなものであれ、一定の「意識」がそなわる可能性があるとことも言っている。一歩間違えると汎心論ともとられるようなラディカルな見解だけど、EdelmanやTononiとしては、一定の複雑さと統合性をそなえたある種のシステムの作動に必然的に浮かび上がる(entail=伴立する)現象ということなのだろう。
この論文は、意識の基盤となる複数のサブシステムの相互作用における複雑性を定量化するための3つの数学的なモデル、Neual Complexity、Information Integration、Causal Densityについて紹介し、それぞれのモデルの長所、短所について述べた論文。
Neural Complexityは、複数のサブシステムが一定の独立性を保ちつつ、同時に統合されることにより、システム全体がコヒーレントな活動パタンを生み出す程度を定量化するモデルで、解剖学的な構造の解析を必要とするが、脳のような複雑なシステムに応用することは困難。
Information Integrationは、以前にも少し詳しく紹介したが、システムが統合することのできる情報量(ここでは、Shannon的な情報)を定量化するモデルで、脳の神経回路の解剖学的な構造から計測することができる。
Causal Densityは、ネットワークを構成する要素の活動パタンのdifferentiationとintegrationを生み出す因果的な相互作用の程度を定量化するモデルで、解剖学的な構造に依らない。
Sethは、それぞれのモデルについて、supplementで簡単な数式を交えて紹介しており、勉強になった。結論としては、現在のところ意識の諸特性を包括的に捉えるモデルは存在しないということ。
Lutz A, Lachaux JP, Martinerie J, Varela FJ.Guiding the study of brain dynamics by using first-person data: synchrony patterns correlate with ongoing conscious states during a simple visual task.Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Feb 5;99(3):1586-91. Epub 2002 Jan 22.
Varela亡き後のNeuro-phenomenologyの一例。眼球の輻輳によって3次元立体画像を示すautostereogramを示したときに生じる知覚パタンに関する被験者自身によるfirst-person dataを、その内容に基づいていくつかのphenomenal clusterに分類したとき、それぞれにphenomenal clusterに対応したEEGパタン(特にneural synchrony)が見いだされたという実験。現象学の綿密な鍛錬でなくとも、十分なtrainingを経た被験者のfirst-person dataから、基盤となる神経活動のパタンをある程度まで推測することが可能であることを示している。以前挙げたEEGのMicrostateに関する論文にも似たような報告があった。ちなみにNeurophenomenologyの文脈でSchizophreniaを対象とした実験は今のところ無い様子。
Lutz A, Greischar LL, Rawlings NB, Ricard M, Davidson RJ.Long-term meditators self-induce high-amplitude gamma synchrony during mental practice.Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Nov 16;101(46):16369-73. Epub 2004 Nov 8.
これも同じくフランスのLutzによる実験。以前紹介したかもしれない。長年瞑想を行ってきたチベットの仏教僧の脳波とcontrol郡の脳波を(ネパールで)計測したところ、修行僧ではhigh gamma amplitudeとlong-distance synchronyの増大が確認され、同様の差異が瞑想にいそしんでいないresting stateにおいても確認されたという内容。統計的な解析から、これらの変化が年齢によるものではなく、瞑想修行の年数と正の相関が存在することが確認された。Lutzらは、瞑想修行が脳の活動パタンに長期的な影響を与えることを示している。Methodsでは、loving-kindness and compassionなどと瞑想の詳細(?)についてもちゃんと真面目に書かれている。Lutzによれば、このような実験もneurophenomenologyの一環として行われたということ。
これからは、Erol BasarとLe Van Quyenの論文を集中的に読み込む予定。しばらく時間がかかりそうだ。
今日の音楽:Choying Drolma and Steve Tibbetts"Selwa"(CD)
高度3000m超のチベタンシャント。80年代にECMなどで活躍したギタリストSteve Tibbettsによってブータンかネパールあたりで発掘された女性歌唱家Choyingが、彼のミニマルなギターソロに合わせてシャントする。西洋のフィルターを通してはいるが、単に西洋人のエキゾ趣味に終わらない静謐とした空気感がある。
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コメント
わるねこさん、こんにちは。わるねこさんがこれまで紹介されている論文、大変勉強になります。ありがとうございます。参考にさせて頂きます。是非、頑張って継続してください。
投稿 ykenko1 | 2006年7月16日 (日) 20時01分
こんにちは
やはり、「意識の諸特性を包括的に捉えるモデルは存在しないということ。」ですか。
それでは、現実のいろいろな問題に対処するのはむずかしいですね。
投稿 湖南 | 2006年7月17日 (月) 09時01分
湖南さん、
ぼくが瞑想や禅の思想に素人ながら興味をもっているのは、今になって仏教思想に接近している一部の西洋哲学の影響からでした。特にFrancisco Varelaという哲学者の影響が大きいです。意識の成立過程を考える場合、意識の成立が障害された疾患から意識の本質に迫ろうとすることがあるように、瞑想も意識が極端に変容した状態として、良いケーススタディになるようです。Lutzの実験では、瞑想が脳に外部から観察可能な痕跡を残すという点が面白いですね。
ykenko1さん、
ykenko1さんのご指摘通り、意識の理論やモデルで、僕の知っている限り臨床に役立ちそうなものは無いですね。でも、色々な病気の病理過程を考える上では、意外に役立つことも多いような気もします。特に精神疾患の場合は、精神病理を考える上で示唆に富むことが多いです。この辺りが僕のテーマなんですが、じっくり考えていきたいです。
投稿 わるねこ | 2006年7月17日 (月) 23時10分
以前一度書き込みをしたことがありますが、
お久しぶりです・・
フンザに行かれるんですね。
私も去年の5月頃に行き、魅せられました・・
恐ろしいほど引き込まれそうな美しさに。
その後、災害があったので、
今はどんな感じになってるんでしょうか。
またブログでの報告楽しみにしています☆
認知運動療法の学術集会・・いかがでしたか?
私も参加したかったです。逃しました。
投稿 あるこ | 2006年7月18日 (火) 12時29分
あるこさん、お久しぶりです。
あるこさんも認知運動療法をチェックしていたということは、この分野に興味をもっている方なんですね。福岡の学術集会は、追って書き込む予定です。
あるこさんは、既にフンザに行かれたんですね。5月ってカラコルムハイウェイが開通する頃ですよね。僕の場合、カシュガルin、イスラマバードoutを考えているのですが、曜日の都合でチケットがまだ確保できていません。やはり、フンザには2泊以上したいですからね。今のところは、フンザからの長めをgoogle earthでシュミレーションするしかないです。
投稿 わるねこ | 2006年7月18日 (火) 21時50分