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2006年8月17日 (木)

Neural Darwinism

明日は、田沢湖の鶴の湯に行ってくる。

Gerald EdelmanのTNGSまたはNeural Darwinismについて、ざっくりとまとめてみた。細かい点は大分はしょっているけど、大体こんな内容だと思う。

○選択システムとしての脳
 脳は、身体で最も複雑な構造をそなえた臓器である。基本的な構造は遺伝情報によって決定されているが、脳は可変性を有しており、経験と学習を通じた変化が蓄積するため、個体ごとの差異は膨大となる。このような複雑性や可変性は単なるノイズと捉えるべきではなく、むしろ私たちの多様な脳の機能とも深く関係しているものと考えられる。このような脳の複雑性が進化の過程で獲得されたことは、もはや疑いようのないことである。DNAの存在が知られていなかった時代、このような可能性を最初に指摘したのがダーウィンであった。ダーウィンが発展させた思想は、彼の個体群思考という概念に強く刻みこまれている。すなわち、多様な異種性をもつ個体群が集団内で生き残りをかけて競争し合う過程で、選択が生じることによって、環境の中で有効に機能する生体の諸構造、ひいては生体組織の全体が出現するという概念である。そして、このような選択のプロセスを自然選択natural selectionと呼んだのであった。選択主義は、多様性diversity、増幅amplification、選択selection、縮重degeneracyという4つの原理によって特徴づけられる。
 Edelmanは、ダーウィンの個体群思考あるいは選択の原理が、種のレベルだけではなく、個体レベルの様々な生物学的現象においても認められる普遍的なプロセスであると仮定した。つまり脳を選択システムとして捉え、自然選択主義的な観点から脳の構造と機能に関する包括的な理論を構成した。理にかなった理論とは、脳の主要なメカニズムを支配している諸原理を記述できる理論のことである。そのような理論ないしモデルの一つに、初期の認知主義では脳がコンピューターあるいはチューリングマシンのようなものであるとみなす考え方が存在した。そうした教示主義的なモデルがプログラムとアルゴリズムに従うのとは対照的に、個体群思考に基づく脳のモデルは、多様な要素ないし状態からなる膨大なレパートリーの特定の要素ないし状態の選択のプロセスに従っている。それは必ずしも中央演算装置のような特権的なメカニズムを必要とせず、システムを構成する互いに結ばれた要素どうしの関連性や協調性の中から、おのずと立ち現れる自己組織化のプロセスである。このようなモデルを、Edelmanは、神経群選択仮説Theory of Neuronal Group Selection:TNGS、または
神経ダーウィニズムNeural Darwinism(以下TNGS)と呼んだ。TNGSは、1978年にV.B.Mountcastleの編纂した"Mindful Brain"に収録された論文、"Group selection and phasic re-entrant signalling:a theory of higher brain function."において初めて提唱された。

○TNGSの3つの原理
 TNGSにおける選択の単位は、神経細胞群neuronal groupである。数百から数千の互いに結合した神経細胞群のシナプスの結合強度の可変性を通して、神経細胞群ダイナミクスな変化がもたらされる。このような選択のプロセスは、以下の3つの原理からなる。

1. 発生選択の原理developmental selection
 遺伝的に条件づけられた神経解剖構造が確立される初期段階において、ニューロン群のシナプス結合パタンに膨大な多様性が蓄えられる。これは発達の初期過程にみられる神経細胞の移動、細胞死、軸索枝の延長、他の神経細胞との接続、刈り込みなどの一連の後成的なプロセスによる。その結果、脳内に無数の異種性をもつ回路ないしニューロン群のレパートリーが創造される。さらに、これらのニューロン同士のシナプス結合は、胎児の段階からみられる脳の自発的な電気的活動や体性信号によって増強されたり、減弱されるなどして、脳の機能的構造の第一段階のレパートリーが構成される。

2. 経験選択experiential selection
 発生選択の時期と一部重複しながら、個体の死に至るまで続く第二の選択プロセスとして、経験選択が挙げられる。神経解剖学的な主要構造が完成した後も、個体は様々な知覚あるいは運動行為に伴い、外部環境から多様な入力を受け取り続ける。ある特定の入力に対応して、脳内の特定の神経細胞群が選択的に発火し、これらの神経細胞群のシナプス結合の強度は結果的に増強・増幅され、一方で他の神経細胞群との間のシナプス結合の強度は減弱する。このようなプロセスを経て、神経解剖学的な主要構造が保たれたままでも、神経回路の機能的結合性が変化し続けることになる。後述のように、これらの経験を通じたシナプス選択のプロセスは、価値システムによる選択圧によって拘束されている。

3. 再入力性マッピングreentrant mapping
 発達の過程から経験を通じて、再入力(reentry)は、局所および複数の脳領域間における並列的かつ双方向的な神経回路を介した再帰的な信号伝達のプロセスであり、再帰的な神経回路におけるシナプス結合強度の増強プロセスによって生じる。再入力はフィードバックと異なり、単一の固定されたループ内におけるエラー信号の伝達がそれぞれ順番に伝播するというものではなく、またフィードバックのようにあらかじめ設定された付属の誤差関数などもない。再入力は並列する多数の双方向性経路で同時並行的に起こるものであり、その結果分散した神経細胞群の発火活動が同期し、幅広い領域にわたる時空間的な協調性が実現される。再入力性回路において知覚カテゴリー化や単純な学習機能が実現されること(Chen,Edelman et al,2003)や、分散した領域の活動が統合されることが、Edelmanらによる大規模なsimulation studyによって示されている。

 発達選択および経験選択が脳の複雑性に貢献するのに対して、ダーウィンの進化論や免疫学との直接的な関連をもたない再入力性マッピングは、TNGSにおける中核概念であるとされる。また、上記の選択システムでは、多様性、増幅、選択という基本的な特性に加えて、縮重と呼ばれる興味深い特性が見いだされる。縮重とは、「複数の異なった物理的プロセスが同一の出力を産出するという特性」と定義づけられる。出力の側からみれば、その基盤となるプロセスを求める際に、固有解がただ一つだけではないことを意味する。これは、コンピューターのように教示的で固定されたシステムにはみられない特性である。縮重の典型的な例として、複数のコドンが同一のアミノ酸をコードしているという事実が挙げられる。また、神経組織においては、脳内の異なる神経回路群の活動によって、同様の運動出力がもたらされることや、脳内のある領域が損傷されてもしばしば別の領域によって能力が補填される臨床的事実などが例として挙げられよう。また、同様の現象は免疫系における抗原—抗体反応にも見いだされる。つまり、縮重は、脳だけでなくあらゆる選択システムに偏在する特性であると言える。これらの縮重と再入力性マッピングにより、脳の作動原理を選択プロセスという観点から捉えることが可能となり、コンピューターのようなアルゴリズムによって統制された教示的な組織化を必要とせず、自身の選択プロセスによって機能的構造が決定されるという自己組織化が可能となるのである。

4.価値システム
 上記のTNGSの諸原理や縮重といった特性によって、脳の自己組織化のメカニズムが包括的に説明されうる。この選択のプロセスはランダムではなく、学習機能に代表されるように、脳は環境に適合して、適切な行為を生み出すという一定の方向性をそなえてもいる。このように、脳の選択プロセスを方向付けるもの、あるいは選択プロセスの拘束条件とは、いかなるメカニズムであろうか?Edelmanは、脳の選択プロセスが広汎性上行性賦活系によってもたらされる価値によって拘束されていると想定している。選択システムにおける価値は、ダーウィンの選択圧と相同的な概念である。選択圧は様々な出来事におけるpositiveあるいはnegativeなsalienceを反映し、選択の方向を決定づける。生体における価値は、主に広汎性上行賦活系によって媒介される快・不快や、痛み、感情などによって反映されているものと考えられる。広汎性上行性賦活系は皮質に拡散的に投射し、それぞれの神経伝達物質をすることによって広汎な神経細胞群に同時に影響を与えている。これによって広汎性上行性賦活系を構成する軸索の近傍にある神経細胞が、グルタミン酸の入力を受けて発火する確率に影響を与えている。広汎性上行性賦活系は学習や記憶に影響を与えるニューロンの反応に一定の傾向をもたらし、生存に必要な身体反応を制御しており、このような意味で広汎性上行性賦活系は価値システムと名付けられている。これらの価値システムは、哺乳類の場合、脳幹に位置し、大脳に広く投射するノルアドレナリン、セロトニン、ドパミン、コリン、ヒスタミン作動性神経核などによって構成されている。

TNGSは、ダイナミカルシステムや複雑系の理論を取り込みながら、後にfunctional cluster、dynamic coreという意識の理論に拡張されてゆく。

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コメント

まことに勝手ながら、一風変わった脳内構造のサイトに、リンクを張らせていただきました。よろしければ、ご確認のうえ、ご批評などいただけないでしょうか?

投稿 ノース | 2007年7月 5日 (木) 15時41分

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