パーコレーションと意識
最近気になるのは、やはりネットワーク関連。
特に相転移とか、パーコレーションなどは非常に気になる現象だ。
数式はよく分からなかったが、small-world networkとneural synchronizationに関する増田直紀の論文も読んでみた。
最近の文献を読んでいる限り、意識に相関する神経活動としては、γ帯域のsynchronous oscillationよりも、低周波数帯域のα、β帯域あたりの方が可能性が高いのかもしれないと思う。
Singerの最初の報告がγ帯域だったから、その他の周波数帯域はあまり良い扱いを受けていない。
今年になって、FinlandのPalva(夫婦か?)がα frequency oscillationに関するreviewを書いていたが、これはなかなか面白い内容だった。どちらかというと軽視されがちな低周波数帯域のoscillationでも、色々と興味深いデータが集まっているようだ。特に、意識とか注意との関連でのデータが面白い。
意識が成立するためには、少なくとも脳内のlarge-scaleなintegrationが必要だと思うが、比較的localなγ帯域のneural synchronyはそのようなlarge-scale integrationには余り向いていない。むしろ、よりlocalな意識のcontentsをコードしているのかもしれない。これに対して、より広域にsynchronizeするα〜β帯域のoscillationのは、large-scale integrationに貢献しやすいと考えられる。
さらに、これらマルチチャンネルのoscillationが周波数をまたいで相互にphase-lockし同期しているとというエビデンスもあり、最終的にはoscillationのバンドを分けて考える必要は無くなってくる。つまり、αバンドの上に、βバンドやγバンドのoscillationがのっかっることが可能だ。こうなると、脳内で並列的に走っている無数のoscillationやらシングルスパイクやらが、常にマルチスケールに統合されていて、局所と全体が相互に影響を及ぼし合うようなreccurentでholisticなクラスターを構成しているという可能性が出てくる。
おそらくは、Edelmanの言うDynamic CoreやもっとシンプルなBaarsのGlocal work placeもそういうものだろうと思う。少なくとも、PFC、frotal、parietal regionを巻き込むような大規模なクラスターだ。
ただし、large-scale integrationと言っても、実際に同期現象が皮質をどのように伝播していくかは、シミュレーションを除いて実験的にはほとんど明らかにされていない。脳のsmall-world性やsynchronizabilityから想像すると、同期の伝播はネットワーク上のパーコレーションに近いプロセスなのかもしれない。全てのニューロンが同期するわけではないし、互いに競合するoscillationの中でwinner-take-all式に一つが生き残って伝播すると考えると、それは部分的パーコレーションのようなものだろう。ただ、ある種のパーコレーションが成立したとき、ニューラルネットワークレベルでは一種の部分的な相転移みたいな現象が生じているのかもしれない。このような相転移は、おそらく数十〜100ms持続するmetastableな状態で、見方を変えれば準アトラクターのようなものなのかもしれない。
ニューラルレベルで一種の相転移が起きているとき、心的現象レベルでも何かが起きているのかもしれない。
このように、シングルニューロンレベルからネットワークレベルまで一気に駆け上がってくると、ニューロンの振る舞いは、単スパイクやバーストから、同期、synfire chain、grouping、パーコレーションなどのように、より複雑になるという階層的な構造を示す。
実験的結果から、シングルニューロンレベルでの振る舞いが要素的なコーディングメソッドとして用いられているのは間違い無い。しかし、僕はネットワークレベルの同期、あるいはそれ以上のスケールの振る舞いも、何らかの心的現象をコードしていると思う。しかし、コードされた心的現象にも階層的構造があり、意識や主観的体験はその最上位層にあるのかもしれない。
こうやってspeculationを重ねれば、確かに色々とつながってくるのだけど、これじゃあちょっと危ないところもあるので、やはりエンピリカルなデータもしっかりと押さえていかなければならないと思う。
あと、最近知ったのだが、かのBuzsakiが昨年本を書いていた。
G.Buzsaki"Rhythms of the brain"(Oxford Univ. Press, 2006)
これは絶対に読まなきゃ。
今日の音楽:Rei Harakami feat 原田郁子/Colour of the dark暗やみの色
昨年、Rei Harakamiの音楽と大島さんのプラネタリウムMegastarを連動させた企画が科学未来館であり、これはそのとき会場で販売されていたCD。クラムボンの原田郁子もナレーションで参加。僕は、その会場に行く機会は無かったものの、このCDだけをもっている。そして、既に廃盤。これが、とても素晴らしい内容の音響電子音楽で、優しい音が楽しげにたわむれるような音景。Rei Harakamiはもともと視覚的な音楽をやっているだけに、じっと目をつむってこのCDを聴きながら、そのとき目の前に流れていたであろう光景を想像すると背筋がゾクゾクとしてくる。あー、きっとすごいイベントだったんだろーなー。
最近色々と良いCDやレコードを見つけたが、まだ届いていないので、また後日。
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コメント
最近、small-world networkのストロガッツの書いた『sync』という本を読んだのですが、内容的にはSWNがsynchronyのための空間的な構造だとすれば、この本はパルス結合振動子がテーマでsynchronyのための時間的な構造の話でした。synchronyのためにはシステムが満たすべきいくつかの条件があるようなのですが、そのあたりはあまりはっきり分かりませんでした。一般書ですし。synchronyをコンピュータシュミレーションのモデルで確認するのは比較的容易でも、それを数学的に証明するのがまだまだ難しいようですね。ところで最近、私もRei Harakamiの『わすれもの』というCDをiTunesで購入してよく聞いていました。Rei Harakami+原田郁子『暗やみの色』もiTunesで売っているようです。似たような系統でI am Robot and proudのCDも良かったです(というかかなり似すぎです)。
投稿 ykenko1 | 2007年3月 7日 (水) 13時01分
そうですね、僕もSYNCを読み終えましたが、あの本で何かが分かったというような気にはなりませんでした。自然界一般の同期現象を扱っていましたが、同期が生じるためのパラメータ条件とか、そういう話にはなっていませんでしたね。神経活動の同期について書かれた章も正直冗長で余り記憶に残っていません。SWN関連では、Barabasiと増田直紀氏の本がダントツに面白かったです。あと、原著ですがBuzsakiの本がかなり楽しみです。
ちなみに、ykenko1さんもRei Harakamiとか好きなんですね。そういえば、ykenko1さんは以前にBrian Enoなどのアンビエントものも紹介してましたね。僕もRei HrakamiはRed Curbのときから聴いています。あのCDは自慢のつもりで書いたので、iTunesで購入できるなんてちょっと悲しいです(笑)。
投稿 わるねこ | 2007年3月 7日 (水) 18時33分
Rei Harakamiの件についてはがっかりさせてしまって済みませんでした(笑)。ところでわるねこさんが書いておられるような説が本当だとすると、どうしてもそういう複雑なシステムのコントロールセンターを想定したくなるのが一般的な考え方だと思うのですが、どうなんでしょうね。それとも各々のクラスターがミンスキーの『心の社会』のエージェントみたいに共同作業しているんですかね。それぞれのエージェントが勝手にやっていても自然とそれらが同期して、統合されてしまう?それともデネットの多元的草稿説みたいな感じ?いえ、わるねこさんの説に異議を唱えているのではなくて、単純に私が分からないというだけなんですが。
投稿 ykenko1 | 2007年3月 8日 (木) 20時31分
いえいえ、ykenko1さんも音楽好きなのではないかと思っていたので、ちょっとうれしかったです。
ちなみに、僕もこの辺りは根拠があって言っているのではなくて、はっきり言ってspeculationです。ただ、極論ではありますが中央集権的なコントロールセンターは必要ないと思います。個人的にはミンスキーのアイデアに近いですが、ハーケンのスレイビング原理のような要素ー全体関係もあり得るんじゃないかと考えてます。Varelaは、双方向性の因果関係と表現していましたね。また、注意によるtop-down modulationなどの例のように、ネットワークレベルでの振る舞いに何らかの確率的なバイアスをかけるような仕組み(あるいは領域)はあるんじゃないかと思います。top-downの注意にはPFCとか、ACCとか、右のparietalとか、局所領域の活動が必須だったりするかもしれませんが、それでもやはり中央集権的なメカニズムではなくて、共同的な現象だと思います。おそらく、個々のニューロンは刹那的に振る舞っているだけで、隣のニューロンが発火したから自分も発火しよう、というようなことなのでしょう。これが、アッセンブリ、ネットワークと高次になるにつれ、だんだんと自由度が減っていって、アトラクタみたいな活動パタンが浮かび上がるような感じでしょうか。
ちなみにデネットの本は、挫折しました(笑)。
うーん、好き勝手に書いてますが、余り根拠は無いので、妄想かもしれません。
投稿 わるねこ | 2007年3月 8日 (木) 23時17分
妄想だなんて、そんなそんな。膨大な知識量を背景にした立派なレビューだと思います。ところでハーケンのスレイビング原理というのはどんなものですか?それから話が飛ぶのですが、Edelmanのdynamic coreですが、“wider than the sky”や“universe of consciousness”では同時に存在するcoreはひとつのような書き方だったと思いますが、同時にいくつかのcoreが存在して、それらが共同作業をしていても良い訳ですよね。ただcoreの持続は数百msecのオーダーだから、そういう短時間の中での共同作業といってもイメージしにくいですが。つまりはdynamic coreが心の社会を形成していると言う…。ここら辺はspeculationのspeculationなので、あんまりつっこんで色々議論してみてもあれですが。
投稿 ykenko1 | 2007年3月 9日 (金) 00時00分
僕は表面をかじっただけですが、ハーケンのスレイビング(隷属)原理とは、簡単に言えば、複雑な物理系では、要素の活動が全体の活動を構成している一方で、全体の活動が要素の活動を拘束する(隷属する)という原理です。確か、レーザーの生成原理を元にしたモデルだったと思います。また、この全体的な活動は、意外にも少数の変数(秩序パラメーター)のみによって決まることがあり、このような秩序変数を探求する学問をシナジェティクスと名付けています。ハーケンは、理論的神経科学に関する本も何冊か出していて、シナジェティクスを応用しています。
あと、dynamic coreのイメージって、なかなか難しいですよね。以下、僕の理解です。Edelmanの定義では、coreはfunctional clusterの中で最大規模のものを言いましたね。functional clusterは、入れ子状になっていて、観察するスケールの取り方によって、局所〜大規模のものまでが階層的に存在するのだと思います。たった数百個のニューロンからなるアッセンブリも、機能的クラスターの一つと言えるでしょうし、これらが集まってさらに高次のクラスターを構成しているのだと思います。そういう意味では、dynamic coreが複数の小さいcore郡から成っていると言っても良いのではないでしょうか。共同作業というと能動的なプロセスみたいに聴こえますが、実際に起きていることは、これらのcoreの活動が数百msecのオーダーで互いにタイトかつ大規模に相関(例えば、large-scaleな同期などを通して)しているだけなのではないかと思います。
この同期は非線形的な現象で、おそらくネットワークにあっという間(数十〜数百msecくらい?)に広まるのではないでしょうか?脳が、small-worldみたいな構造をしていたら、それも可能でしょう。ちょっと前にパーコレーションの本を読んでいて、そのように思いました。
投稿 わるねこ | 2007年3月 9日 (金) 00時32分
わるねこさんお勧めのBuzsakiの"Rhythms of the brain"、手に入れました。面白そうです。Watts & StrogatzのNature論文のsmall-world networkの図(円形のネットワークでconnectionがregularからrandomに変化していく図)がそのまま転載されていて、感動しました。やっぱり、sync.osc. の基盤はネットワーク特性というところに落ち着きそうですね。
投稿 ykenko1 | 2007年3月13日 (火) 22時44分
>やっぱり、sync.osc. の基盤はネットワーク特性というところに落ち着きそうですね。
ですよね。Strogatzの本を読んでるときは、どうして同期が起きるのかがよくわかりませんでした。ですが、ネットワークの視点で考えると、適切なコネクションから構成されるネットワークシステムを一度作動させると、「自然に」同期が生じるのでしょう。
Buzsakiは、スモールワールドやスケールフリーネットワークを、インターニューロンシステムに見立てているようですね。僕もちびちびと読んでいきます。
投稿 | 2007年3月14日 (水) 21時00分