混沌への視座
最近読み始めた本。
山田史生「混沌への視座」(春秋社)
前回のブログで久しぶりにVarelaについて触れたので、その流れで神経科学と仏教について。
うーん、この時点で何だかいきなり怪しい匂いをかぎ取る人もいるかもしれない。
仏教の世界観、例えば般若心経の「空」とか、初期仏教からの中心的な概念である「縁起」とか、龍樹の中論など・・、僕はそのあたりの入門書しか読んだことがないのだけれど、知れば知る程、仏教の世界観が現在の神経科学の一部が向かっている世界観に近いものがあるなあと感じる。
全く宗教に縁の無かった僕がいわゆる仏教思想に漠とした興味を持ち始めたのは、Edelmanの"Wider than the sky"の翻訳作業を行っていた場で、一緒に訳していた2人の先生との間でときおり自然発生的に出てきた雑談がきっかけだった。以来、寝る前に布団の中で「仏教の歴史」とか、「空海の夢」といった本を引っぱり出しては、ちょこちょこと読んでいた。
普段、脳がどーだあーだと書いているブログで、仏教と脳などという話題でものを書くことにはいささか勇気がいるのだけれど、最近の世の中の動向をみていると声高に言ってもいいような気がしてきたので、いっそ開き直って書いてみよう。
それに、こういうテーマが怪しく感じてしまうのは、双方を架橋する言語の乏しさに由来するところが大きいように思われる。
今のところ、Varelaの「embodied mind」くらいしか、仏教と認知科学との関係についてインテンシブに述べた本は知らない。そこでは、認知科学の新しい概念が仏教の既存の用語に翻訳され、逆に仏教の側から認知科学に対していくつかの新たな概念が提示されている。しかし、あれはやはり最後まで神経科学から仏教へのアプローチだと思う。
神経科学の領域では、Varela門下のAntoine LutzがRichard Davidsonとともに、meditationとneural synchronizationの関係をEEGで調べた面白い研究が、PNASに掲載されている。これが、いまのところ最も批判に耐えうる研究か。今年も、Lutzらが続編ともとれる研究をPNASに掲載している。そういえば、誰かが仏教、中でもmeditationの本質を「意識をコントロールすること」と言っていたのだが、誰だか思い出せない。
ただ、僕自身としては、仏教の側から神経科学や認知科学にアプローチするという逆の方向があってもいいんじゃないかと思っていたのだけど、今のところそういう本や論文は見つからない。
そういった流れの中で、たまたまこの本を見つけた。
まだ出だしだけしか読んでいないけど、パラパラと先をめくってみると、複雑系、オートポイエーシス、アフォーダンス、量子論という用語がみてとれる。仏教の側からのアプローチとしてこういった用語が出てくるのは、とても珍しいことだし、内容も期待できそうだ。
仏教自体は、捉え方によっては膨大な理論から構成される一種の体系化された哲学とその実践と言ってもいいと思う。その中でも、特に興味があるのが華厳哲学だった。
たとえば、「縁起」という概念。極端に言えば、事物それ自身は実在性をいったん否定され、在るのはただ事物の関係性だけであるという、関係論的実在論のことだ。
全ての事物は、単体では意味をなさず、複雑な関係性の中でお互いに相互作用しながら(相即即入)事象を構成している。言い換えれば、各々の事象は、関係性の中でしか生起してこないということ。
率直に言って、かなりラディカルな立場だと思うのだが、意外にすんなりと受け入れてしまう自分もいる。こういったことを1000年以上も前の人たちが確信をもって言い放っているのには驚かされる。
ここで、何が言いたいというわけではないけど、僕たちは「無実体性」とか、「空」といった言葉を、それほどの抵抗なく受け入れられる土壌で生まれ育ったわけなので、少なくとも夜中に部屋であれこれ考えるという限りでは、こういった視野を完全に捨て去る必要もないんだろうなあ、思った次第。
今日の音楽:V.A."Hello Kompakt"
Kompaktは1998年にドイツのケルンで設立され、最近、僕が最も注目しているレーベルの一つ。90年代後半からのアンダーグラウンドなテクノ/ミニマル/アンビエントシーンの雄であり、現在最も影響力の強いレーベルと説明される。僕の中ではビートレスでアトモスフェリックだがしっかりとテクノな音楽と言えば、真っ先に"Kompakt"を思い浮かべてしまう。このCDは、Kompaktのレーベルコンピレーションで、Ciscoが独自に選曲した日本特別版。
ちなみに、毎年クリスマス辺りにリリースされる"Pop Ambient"もKompaktのコンピレーションで、いつも秀逸な内容なので、毎年欠かさず買っている。
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