insight
最近は、変な咳が続いて体調が悪い上に、病院の仕事でもストレスが多くて、何だか調子が上がらない日々が続く。
来年度からの研究を控え、最近は色々と実験デザインを考えているのだが、これがなかなか苦戦している。
特に、新しいタスクのアイデアがなかなか思いつかない。
最初の実験では、意識にはこだわらずに、できるだけまとまった結果がでやすい実験をやりたいのだが、今のところ、平凡におもいつく限りのタスクは既にインテンシブに調べ尽くされている、と、既に弱腰な気分。
一回でも何か出来れば、流れは変わるだろうと思うのだが。
その中で、これは出来るかもしれないなあと思うのが、"insight"。
insightは、心理学の領域では問題解決のストラテジーの一つとして長い歴史をもつ研究テーマなのだが、brain-imaging(EEG、f-MRI、MEG)を使った研究はまだそれほど多くない、というのが最大の理由。
insightを伴う問題解決では、ある問題に対する解答が突然アウェアネスに上る(aha experiece)。これに対して、analyticな問題解決のストラテジーは、終始意識下に進行し、段階的に解答へと至る。したがって、insightとanalytic solutionは、problem solvingにおけるconscious processingとsub-conscious processingという観点から捉えることができそうだ。
さきほど、意識にはこだわらない、と書いたが、insight/problem solvingという観点から、意識の問題に入っていくこともできるかもしれないというのが、僕が興味をもったもう一つの理由。
問題の種類にもよるが、ヒントを与えることによって、sudden insightが生じるまでの時間を一定の範囲内におさめることも可能だ。ヒントを与えないのであれば、responseにタイムロックさせて加算平均するのでもよいかもしれない。個人的には、ERPだけでなく、frequency別のpower spectrum解析、可能ならsynchronizationを調べてみたいのだが、それは解析ソフト次第か。
何よりも、sudden insightを導くような問題、しかも短時間、ローコストでできるようなものを考案できるか、というのが最も重要な点。これまでの先行研究で使われているのは、アナグラム、compound remote associatiton(CRA) problem、ナゾナゾなどだ。
この中では、二番目のCRAが最もEEG研究に適しているのだが、これよりも良い問題がないかどうか、今考えているところ。
案外、意外なところにヒントがあるかもしれない。
そういえば、茂木氏が、aha experieceの際には、脳内の神経活動が一斉に活動するということを言っているが、僕が知る限り、問題解決やinsightに関連した研究でそのような報告をしたものは今のところない。おそらく、Tallon-Baudryらのダルメシアンの絵を使った研究のことを指しているのだろうが、あれはコヒーレントな知覚パタンの成立、不成立というobject recognitionに関する実験で、確かinsightが生じる瞬間を捉えたものではなかったような気がする。
今日の音楽:Manual "Ascend"(LP)
最近、部屋の占拠していたレコードとCDを大量に売り払ったのだが、この行為が逆にレコード熱を再び上げてしまった。で、懲りずに購入してしまったのが、このレコード。Reminiscent driveやFenneszのような郷愁を帯びたエレクトロニカが、この季節によく合う。夕暮れの時間に聴くと、時間の経過が限りなく延長してゆく。
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コメント
こんにちは。analyticな問題解決法と比較するとinsightは一種のパターン認識なのでしょうか?分かりませんが、良い研究ができると良いですね。期待しています。
投稿 ykenko1 | 2007年11月12日 (月) 08時42分
ykenko1さん
今まで使ったことが無い脳を使っているようで、なかなか苦戦中です。
ちなみに、insightは、パターン認識に近いものではありますが、同じではないようです。というのも、insightは"aha experience"という主観的な体験を必ず伴うもので、パターン認識は必ずしもそうとは限らないからです。日本語に訳す際は、洞察よりもひらめきの方がよいかもしれませんね。
解答がある瞬間に突然意識上に上る、というのが面白いところです。
投稿 わるねこ | 2007年11月12日 (月) 12時37分
だまし絵(ルビンの壺とか)を初めて見てもう一つのパターンに気がつく、というのはinsightと言えるんでしょうか?
何年か前にトリビアの泉で ぷ。 という字がボーリングをする人に見えるというのをやっていて、これは使えるのではと思ったことがありました。
ただ、だまし絵のタスクの最大の問題点は一旦片方が認識されてしまうとattentionが揺れてしまって認知をどちらかに絞ることが難しいことではないかと思います。何かキューを与えながらやれば片方が抑制されるような気がしますが、それだとinsightというところからは離れてしまいそうですね。
研究頑張ってください。
投稿 civa | 2007年11月16日 (金) 20時57分
実験デザインを考えるのってほんと難しいですね。僕の脳はこういう思考に向いてないのでは、と弱気になっています(笑)。こういうのもinsightみたいにぱっと思い浮かぶのでしょうか。
insightという観点で言えば、あるobjectに対する認知パタンが変化した際の主観的なaha-experienceがあればinsightと言えるのではないかと思います。また、それさえあれば、認知パタンの不可逆的なswitchingは問題にならないと考えています。ルビンの壷は、課題としては簡単過ぎて、insightは生じないのではないかと思います。言い換えれば、課題の難易度が有る程度必要かと。「ぷ。」の例は僕もTVで観ていた記憶があります。面白いですね。ただし、見えるまで相当の時間を要した記憶があり、時間の限られた実験環境では課題に対してキューを与えざるを得ないと思います。
ちなみに、白黒の点描画からダルメシアンが浮かんできたときの鮮明さは今もなお強く記憶に残っています。根拠はありませんが、それくらい強い体験を伴わないと、EEGで識別可能なパタンは生じないのではないかと考えています。
投稿 わるねこ | 2007年11月17日 (土) 15時32分
今、Kelsoの本を読んでいるのですが、insightが起こる際の何かの相転移が見つけられると面白いですよね?
投稿 ykenko1 | 2007年12月15日 (土) 05時50分
はじめまして。偶然このブログを発見しました。質・量共にすばらしいいですね。これから読ませていただこうと思っています。
茂木さんが「aha experieceの際には、脳内の神経活動が一斉に活動」と言っているのは、おそらくVarelaのγ帯の長距離同期発火のことをいっているのだと思います。
http://www.nature.com/nature/journal/v397/n6718/full/397430a0.html
Perception's shadow: long-distance synchronization of human brain activity
Nature 397, 430-433 (4 February 1999)
これはMoony faceの論文でHidden Figureとは違うジャン!というつっこみはあると思いますが・・・。
投稿 ノザワ | 2008年1月16日 (水) 17時32分
ノザワさん
はじめまして、わるねこです。
発見して頂いて、ありがとうございます(笑)。
最近、このブログの更新頻度もめっきり遅くなってしまいましたが、これからも気になった論文や思いついたことを書いていきたいと思います。
aha-experienceに関しては、どの実験もtaskが今イチな気がして(仕方のない部分もありますが)、自分で何か出来ないかなと考えています。でも、茂木氏の予測には概ね賛成しています。
ちなみに、ご存知かもしれませんが、insightとγ帯域のoscillationとの関連ということであれば、ダルメシアンのhidden figureを使った
Tallon-Baudry C, Bertrand O, Delpuech C, Permier J.
Oscillatory gamma-band (30-70 Hz) activity induced by a visual search task in humans.J Neurosci. 1997 Jan 15;17(2):722-34
が有名ですね。これは、一応visual search taskということになっています。でも、詳しく読んでみると最初から解答を与えているので、はたしてinsightのような主観的な体験を伴っているのか、微妙なところです。実際に、insight関連の文献では、余り引用されていなかったような気がします。
投稿 わるねこ | 2008年1月16日 (水) 23時00分