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2008年3月 7日 (金)

beyond NCC

Edelmanの意識の理論の重要な概念に、"degeneration"(縮重)というものがあった。縮重の定義は、「異なる組み合わせのユニットが、同一のアウトプットを産出する」、もしくは「同一のアウトプットを産出するユニットの組み合わせが2つ以上存在する」ということだ。これを、意識の観点から言い換えてみると、「異なる組み合わせのニューロンの発火が、同一の意識状態を産出する」ということになる。縮重の程度が大きければ大きい程、そのシステムは冗長であり、意識の成立に参与するニューロン群の数も増加するとことになる。

意識の神経基盤もしくはNCCを考える上で、縮重や冗長性という概念にEdelmanはどうしてこれほどまでにこだわるのだろうか?これまで、僕は今イチよく理解できなていなかったのだけれど、とある論文を読んで、この疑問が氷解した。

Maier A, Logothetis NK, Leopold DA.
Context-dependent perceptual modulation of single neurons in primate visual cortex.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Mar 27;104(13):5620-5

これが、その論文。金井氏のブログで「変化するNCC」として紹介されており、この論文の存在を知った。

視覚皮質のニューロンは、与えられた刺激の特性によって発火頻度を変えることが知られている。しかし、visual NCCを特定するためには、入力刺激の物理的特性によって発火頻度を変える(sensory modulation)ニューロン群を特定だけでは不十分である。むしろ、主観的知覚のパタンに応じた発火頻度の変化(perceptual modulation)を示すニューロン群を特定しなければならない。binocular rivalryやbistable figureは、刺激の物理的特性を変えることなく、複数の主観的知覚パタンを産出するため、NCCの研究に貢献してきたパラダイムである。

上記のsensory modulationとperceptual modulationを示すニューロンの割合は、視覚皮質の中でも、そのprocessing stageによって異なることが知られている。primary visual cortexでは、sensory modulationを示すニューロンが多数存在するのだけれど、perceptual modulationを示すニューロンは少ない。一方で、MTなどに代表される高次の処理を担う領域ともなると、perceptual modulationを示すニューロンの割合が増加する。さらに、これらのニューロンの割合は、刺激の種類、提示方法によらず一定の値を示すことも報告されている。このような知見は、脳内に、静的、固定されたNCCが存在するのではないかという予想を生み出すことになった。実際に、Kochは、そのNCCの探求において、主観的視知覚を担う特定のニューロン群が脳内に存在するのではないかと推測している。しかしながら、sensory modulationを示すニューロンと、perceptual modulationを示すニューロンとの本質的な違いは明らかにされておらず、両者に決定的な違いが存在せず、重複している可能性もある。

この実験では、binocular rivalry flash suppression(BRFS)で異なるペアのmoving dotsもしくはmoving gratingを提示したところ、directionのペアによってMT野のニューロンが示すperceptual modulationのパタンが劇的に変化するという結果が示されている。つまり、MT野では、主観的知覚の様々なパタンに応じて、perceptual modulationを示すニューロンの組み合わせが変化していることを示している。これは、常に特定のニューロン群が主観的知覚の成立に参与しているわけではないということを示している。

さらに、驚くべき結果が続く。この実験では、2匹のサルのMT野で計126個のsingle unitsからニューロンの発火を記録している。1種類の刺激セットに対して、約40%のニューロンがperceptual modulationを示す。この割合は、従来の知見と大差はないものだ。しかし、これを4種類の刺激セットまで拡大してみると、約93%のニューロンがperceptual modulationを示すことが明らかにされている。これは、MT野のstimulus-responsiveなニューロンのほとんど全てといってもいい数字であり、刺激セットの数を増やせば、perceptual modulationを示すニューロン群の割合はさらに増加すると予想される。つまり、主観的知覚に参与する権利は、特定のニューロン群に独占されているのではなく、MT野の大多数のニューロンに与えられている可能性がある。

この実験から導かれる結論は、脳内にはKochの言うようなNCCは存在しないかもしれないということだ。少なくともMT野で考える限り、ほとんど全てのstimulus-responsiveなニューロンが主観的知覚の成立に参与していて、意識の成立にとって脳は僕らが考えていたよりも冗長なシステムだと言えるかもしれない。また、主観的知覚パタンの変化によって、これに参与するニューロン群もダイナミックに変化する。これは、NCCが脳内の特定の構造から成るのではなく、時々刻々と変化するニューロン群によって担われるプロセスだということだろう。

この結論を情報のコーディングの観点から考えると、主観的知覚のパタンは、特定のニューロン群によるrate codingで表現されているのではなく、population codingによって表現されているということだ。このような脳内の情報表現の戦略自体は、近年の神経科学が予想し、実際に示してきたことである。実のところ、Kochも、当初の静的なNCCを特定するという戦略からシフトして、neural cell assemblyに近い"neuronal coalitions"という表現を使用するようになっている。

うーん、こうなってくると、意識の科学にとってNCCという問題提起は本当に必要なのだろうかと考えさせられる。僕らがNCCについて考えれば考える程、その存在位置があやふやなものになってしまうからだ。

蛇足だが、意識の神経基盤を考える上で、ニューロンの組み合わせだけを特定すれば十分とは到底考えられない。むしろ、ニューロン同士がどのようなパタンでリンクし、どのようなconnectivityをもったクラスターを構成しているのか、というネットワーク的な視点から考えていくことがますます重要になるのと思う。

最近観たDVD「甲殻機動隊 2nd GIG」(押井守監督)
無自覚なノードやIndividualistたちがハブの存在下で知らず知らずのうちにシンクロしていく様は、あたかもネットワークに生じるパーコレーションを映し出しているようだ。シンクロの強度が閾値を超えたときに、何が起きるのかは全く予想もつかないけれど、僕たちがネットワークの未来に抱く直感は、おそらく正しい。

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