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2008年4月

2008年4月21日 (月)

network randomization in schizophrenia

ようやく大学での生活にも慣れてきた。この2週間は、過剰適応気味だったかもしれない。
月曜から土曜まで仕事をして、合間に実験の準備をするという生活だ。
要は、出力の配分だ。

Rubinov M, Knock SA, Stam CJ, Micheloyannis S, Harris AW, Williams LM, Breakspear M.
Small-world properties of nonlinear brain activity in schizophrenia.
Hum Brain Mapp. 2007 Dec 10

これは、前々回の記事で紹介したschizophreniaのニューロンネットワークでネットワークアナリシスを行った実験だ。

40人のschizophrenia群と、40人の健常被験者とでresting stateのEEGを130sec計測する。従来のネットワークアナリシスと同様に電極間のconnectivityを計測するわけだが、近隣の電極間電極間の擬似的なcoherenceと真のcoherenceの混同を避けるため、この実験では電極群を大きく7つのderivationに分けて、異なるderivation間のcorrelationだけを評価している。この実験では、correlationの尺度として、Breakspearらの"nonlinear interdependence"を採用している。nonlinear interdependenceは、「あるダイナミカルの現在の状態から、別のシステムの将来の状態をどれだけ確実に予測できるかの指標」と大まかに定義される尺度である。これらの結果として得られたcorrelationのmatricesは、閾値を超えたエッジだけを抽出して、重み付けされたグラフ(weighted graph)へと変換する。閾値は、最も強いエッジの10〜30%の範囲で設定する。最後に、この閾値を少しずつ変化させていった場合の、characteristic path length(L)、clustering coefficient(C)、centralityを計算することによって、ネットワークのトポロジーを調べる。被験者間のばらつきを標準化するため、これらの尺度は特定の手続きで作成されたsurrogateのランダムグラフとの比で表される。

この実験の新しい点は、binary graphではなく、weighted graphを採用している点であろう。弱いエッジの大部分はfluctuationを反映しただけのもので、ネットワークトポロジーにおいて有意ではないという報告がある。しかし、従来のbinary graphでは、弱いエッジも強いエッジも一様に重み付けをされるために、shortest pathとnon-clusterd neighborhoodの出現率を見かけ上押し上げてしまうという問題点があった。

結果としては、従来の知見通り、健常被験者、schizophreniaの両群で、グラフはsmall-world的特徴を示していた。すなわち、「大きなCと小さなL」である。また、ハブ的なトポロジーを示す電極も存在することが間接的に示されている。しかし、両群を比較すると、微妙な差が明らかとなる。すなわち、統合失調症群では、CとLがともに健常被験者に比較して、小さな値を示していたのである。これは、ネットワークのトポロジーという視点から、どのように解釈するべきだろうか?

CとLが小さくなるということは、元々small-world的特徴を示していたグラフが、ランダムグラフにより近づいていることを示している。つまり、schizophrenia患者の脳のマクロレベルの機能的ネットワークはなおsmall-world性を保ってはいるものの、健常者よりもランダムさを増しているということになる。

また、この実験では、ネットワークトポロジーの変化とPANSSなどの症状評価尺度との間に有意な相関は見いだされていない。ここで注意すべきは、Cが小さいから、あるいはLが短いからといって、特定の認知機能が特定の方向に変化するとは言えないという点だ。そのような推測を立てるには、僕らの知識は余りに不足している。しかし、そもそも、small-worldは、functional integration/segregationを両立させるために理想的なネットワ−ク構造だった。schizophreniaのニューロンネットワークでは、微妙なランダムさの増大によってこのようなバランスが部分的に破綻し、情報の生成、処理に何らかの障害を来しているのではないかと推測される。詳細なモデルは、これからだ。

今日の音楽:Little Creatures「ハイスクールララバイ」(細野晴臣トリビュートアルバム)
最近のヘヴィローテーション。細野晴臣作曲、イモ欽トリオのヒット曲をLittle Creaturesがカバー。Little Creaturesがカバーしているだけあって、オリジナルのエレポップ風味は完全に消え失せ、放課後ムードの気だるいフォーキーな歌謡曲となっている。

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2008年4月 7日 (月)

dayvan cowboy / boards of canada

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ネットワークの神経心理学

He BJ, Shulman GL, Snyder AZ, Corbetta M.
The role of impaired neuronal communication in neurological disorders.
Curr Opin Neurol. 2007 Dec;20(6):655-60.

ネットワークの神経心理学とも言うべき内容のreview。

脳の構造学的損傷と行動学的障害との関係の解析は、昔から神経心理学的手法が用いられてきた。しかし、局在論的視野に立つ旧来の神経心理学では説明できないような臨床像がしばしば観察される。たとえば、皮質下の脳梗塞の急性期には、知覚・運動障害だけでなく、遂行機能や言語の障害が出現することがある。このような事態は、局所における損傷と行動学的障害を一対一に結びつけるという旧来のモデルでは、上手く説明することができない。今日の神経学では、このような局在論を逸脱した臨床像について、脳浮腫や血行動態の変化が非特異的な症候を引き起こすという説明がなされることが多いが、もう少し精細なモデルはないだろうか、というのがこのreview。
このような問題意識は、今に限ったことではなく、これまでにもGeschwindのdisconnection syndromeや、ジャクソニズムなどのモデルが提唱されている。このレビューでは、ネットワークの視点に立って、脳梗塞などの高次機能障害を考えるというパラダイムを提唱している。

読んだらくず箱に捨てる類いのレビューかと思って手に取ったら、内容もしっかりまとまっていて、具体的な実験データも色々と紹介しており、読み応えがあるではないか。と、思ったら、He BJ, Snyder AZ、Corbetta Mなどのそうそうたる面子が書いており、なるほどと。彼らは、これまでに、hemineglectやfunctional connectivityに関する実験を、Neuron、Natureなどで報告している強者だ。

「損傷した脳を、旧システムから損傷部位を差し引いたシステムと捉えるのではなく、旧システムとは新たなネットワーク構造をもったシステムと捉えるべきである」、というような表現が繰り返し出てくる。

He BJ, Snyder AZ, Vincent JL, Epstein A, Shulman GL, Corbetta M.
Breakdown of functional connectivity in frontoparietal networks underlies behavioral deficits in spatial neglect.
Neuron. 2007 Mar 15;53(6):905-18.

hemineglect(半側空間無視)の患者を11人集めて、attentional task下でfMRIをとり、functional connectivityと症状の重症度、改善度との相関を縦断的に調べた研究。ventral attentional network(VAN)と、dorsal attentional network(DAN)の二つのattentional pathwayにROIを置いて、領域内、半球間のfunctional connectivityを計測している。

ざっと目を通しただけだが、VANにおけるfunctional connectivityの破綻は症状の重症度と相関し、慢性期においても破綻したままだ。一方、DANをみてみると、急性期には両半球のpIPS間のfunctional connectivityだけが破綻しており、これは慢性期になると改善する。

今日の音楽:Boards of Canada "Olson" from album " Music has the right to children"(LP)
最近のboards of canadaのお気に入りは、このトラックだ。疲れているときは、このトラック。最近、何十回となく聴き続けている。元気のあるときは、1969とraygiv。変な気分のときは、peacock tail。

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2008年4月 5日 (土)

散文

Schizophreniaの中核的病理は存在するか?あるとしたら、それは何か?
この問いは、100年くらい前から精神医学が問い続けてきたもので、今日に至ってもなお、ほとんど答えらしい答えは得られていない。大げさに言えば、患者さんに対する治療的行為、僕たち精神科医がやっていること、精神医学の行く末を揺るがしかねない問題なだけに、「デルフォイの神託」などと仰々しく呼ばれることもある。むしろ、このような大胆な問いを立てること自体を潔しとせずに却下する精神科医も多い。そして、生物学的精神医学と心理主義的な精神医学への二分化が進み、ICD-10やDSM-IVなどの陳腐なお手軽マニュアルが隆盛となった今日にあたっては、もはやこのような問いを抱き続けるナイーブな精神科医は非常に少なくなったのではないだろうか。

schizophreniaの病的体験を記述し、さらに説明すべく、精神科医たちはさまざまな理論や概念を提唱してきた。当時の社会的潮流や時代を反映した哲学的な潮流の影響を間接的に受けながら、「自然な自明性の喪失」、「本質属性の突出」、「ファントム空間論」などなど、本当に様々な説明がなされている。そのどれも臨床的に示唆に富むものだと僕らは実感している。近年は、生理学的な知見に基づいて、ドパミン仮説のみならず、不均衡症候群仮説、視床フィルター仮説などが提唱されている。これらの理論もそれなりの説得力をもっているのだが、やはり昔の人は偉い、というか、Kraepelinの"loss of inner unity"(1919)や、Bleulerの"loosening of association"(1950)などの、理論や議論が現在のように細分化される以前の臨床的な経験に基づいた時代の仮説が、神経科学が隆盛を迎えている近年になって、さらに説得力を増しているように思えてならない。1990年代に相次いで提唱され、最近になってやっと認知されてきたFrisotonのdisconnection hypothesisや、AndreasenのCCTCC仮説(これは、個人的にはどうかと思う)は、KraepelinやBleulerらからの影響をはっきりと言明している。そして、それよりもずっと早い時期の、心理学におけるゲシュタルト理論や神経心理学における離断症候群という一連の概念は、今日の動向を予期させるものだったとも言えるかもしれない。ただ、当時は実証的なデータや、理論化が欠けていただけで、方向性としての違いは無いものと思われる。

話は飛ぶけど、この20年くらいの神経科学の実験的データは、脳内のニューロンの同期発火現象、非平衡相転移やパーコレーションなどの複雑系現象、ニューロンネットワークがもつ特徴的なconnectivityなど、ニューロン群の共同的な振る舞いを明らかにしてきた。脳の機能を、神経の発火パタンによって構成される情報現象としてみた場合に、脳は情報を局在的に処理する側面(information segregation)だけでなく、極めて効率的に統合するという側面(information integration)を持ち合わせているのだ。最近は、精神医学でも、特にschizophreniaの病因モデルにおいて、このような理論を適用したモデルが提唱されている。前々回に紹介したWang XJの論文や、Hoffmanの論文では、schizophreniaのworking memoryの障害をアトラクターダイナミクスという観点から考察しており、これからどのように発展していくか気になるところだ。

一概には言えないが、脳内の情報現象の上に述べたような共同的なふるまいは、神経科学において、まず機能的レベルから先に明らかとなり、解剖学的・構造的レベルでは、やや後回しにされてきたように思える。データの性質や、解析方法などの発展の差異も一因だろう。今でこそ、DTIなどの脳内のネットワーク構造を可視化する方法が確立しつつあるけど、解剖学で巨視的なネットワーク構造を明らかにするのは、以前ははなはだ困難であったと言わざるを得ない。Fristonのdisconnection hypothesisも一見構造レベルに立った理論のようだが、やはり基盤となるのはBOLD信号やEEGなどの機能的なデータであって、この意味では、機能レベルの理論というべきだろう。部分と全体、構造と機能とを異なる次元に分けるのは、むしろ一種のドグマみたいなもので、このようなドグマに拘束されつつ研究や理論化がなされてきたという事情がこのような経緯の背景にあるようにも思える。

いずれにせよ、統合と局在という一見矛盾するような特性を構造、機能という両レベルから説明したモデルは、近年までほとんどみられなかった。ここでまた、唐突に話を飛ばすのだけれど、アトラクターダイナミクスやグラフ理論などの数理的解析手法の神経科学や精神医学への応用は、単なる流行にとどまらず、脳の「機能」と「構造」を一元的な説明に向けた一筋の道になるんじゃないか、と僕は淡い期待をもっている。ただそれが言いたいだけなんだけど、どうだろうか?浅はかと言われるかもしれないが、精神病理学的な読みができるという側面もあると思う。

※断っておくが、理論や仮説はあくまで説明であって、病的体験そのものを直接的に可視化したり、複製するものではない。ただし、神経科学に対するそのような批判はもはや論外だろう。ただし、臨床に携わっている以上、何らかの説明言語や理論化は必要だと思う。それは、病理学でも、薬理学でも、心理学的理論でも、社会学的理論でも、神経科学でも本質的には変わらないはずだ。

Micheloyannis S, Pachou E, Stam CJ, Breakspear M, Bitsios P, Vourkas M, Erimaki S, Zervakis M.
Small-world networks and disturbed functional connectivity in schizophrenia.
Schizophr Res. 2006

schzophreniaで、small-world性が破綻している可能性を示した最初の報告。少ないチャンネルのEEGデータによって再構成された粗いネットワークだが、これが出たときはちょっと興奮した。schizophrenia群では、ネットワークのcharacteristic path length(L)が延びるだけでなく、clustering coefficient(C)も低下している。結果的に、small-world性は破綻する傾向を示している。

Liu Y, Liang M, Zhou Y, He Y, Hao Y, Song M, Yu C, Liu H, Liu Z, Jiang T.
Disrupted small-world networks in schizophrenia.
Brain. 2008 Apr;131(Pt 4):945-61. Epub 2008 Feb 25

精神医学の分野で、グラフ理論を応用した一番新しい実験の報告。ここでは、resting-state下でBOLD信号を記録し、各ROIにおけるlow-frequency bandのfluctuationどうしのpartial correlationをとって、thresholdを設定し、90個のノードからなるグラフを再構成している。ここでも、small-world性は破綻している。

Rubinov M, Knock SA, Stam CJ, Micheloyannis S, Harris AW, Williams LM, Breakspear M.
Small-world properties of nonlinear brain activity in schizophrenia.
Hum Brain Mapp. 2007 Dec 10

これは、まだ読んでいないのだけれど、Stamが絡んでいることから、EEGかMEGでsynchronization likelihoodをとって、再構成したグラフを解析した実験だと思われる。

Achard S, Bullmore E.
Efficiency and cost of economical brain functional networks.
PLoS Comput Biol. 2007 Feb 2;3(2)

抗精神病薬の投与前後でのネットワークの機能構造特性の変化を精細に調べた実験はまだ存在しないが、ここではD2antagonistであるsulpirideを投与した際のネットワークに生じた変化を精細なデータで報告している。

Sporns O, Honey CJ, Kötter R.
Identification and classification of hubs in brain networks.
PLoS ONE. 2007 Oct 17;2(10):e1049.

皮質および皮質下のネットワークのハブの特定を主眼においた解析。連合野がハブ的なconnectivityを示すのは当然の結果だけれど、面白い。

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2008年4月 1日 (火)

明日から

明日から大学院生となる。

と言っても、実状は、無給で働きながらごくわずかの空いた時間に実験を行うという生活だ。

メリットとして、

大学がライセンスを取得した論文にアクセスし放題。今までのように、図書館に行ったり、メールで送ってもらう手間がなくなる。
同じように研究をしている先生たちと、ディスカッションができる。
学会に参加しやすい環境になる。
大学では、僕の臨床能力について第三者的な批判が入る。こういう場所は、臨床人生の中で一度は必要だと感じていた。
ごくわずかの時間に、実験を行うことができる。

デメリットとして、、

うーん、メリットとデメリットは表裏一体だから、書くのはよそう。

最初の実験プロトコルは何とか方向性と大まかな手順だけは決まった。
Attentional blinkのERP studyだ。
ちょっとだけ、consciousnessに絡めてある。

また、MEGを使った実験のプロトコルも考えなければならない。
今のところ、schizophreniaにおける抗精神病薬服薬前と服薬後でネットワークアナリシスを行い、synchronizability、small-world propertiesなどの変化を調べることなどを考えている。

数理解析のプログラムはMATLABで組む(組んでもらう)必要があるが、これをどうするかが一番の問題だ。

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