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2008年10月 5日 (日)

Small-world and scale-free organization of functional brain network

知らぬ間にダン・シモンズの最新作が邦訳されていたので、急いで購入した。
秋の夜の楽しみが一つ増えた。

最近読んだ論文。

van den Heuvel MP, Stam CJ, Boersma M, Hulshoff Pol HE.
Small-world and scale-free organization of voxel-based resting-state functional connectivity in the human brain.
Neuroimage. 2008 Aug 22.

グラフ理論関係の最新の論文。

StamらのAmsterdamグループによる、fMRIによる脳機能画像にグラフ理論を応用した研究だ。Amsterdamグループは元々EEGやMEGなどの電気生理に力を入れていたはずだが、ようやくfMRIによるネットワーク解析にも乗り出したようだ。この領域のfMRIを用いた研究では、以前からAchardやBullmoreのいるKembridgeのグループと、Spornsのグループが目下のところ先導していた(先日、非常に興味深い実験を報告している)が、このAmsterdamグループも含めて、三つ巴の様相だ。そして、最近は北京大学のグループやSingerのいるMax Plankのグループも脳のネットワーク解析に乗り出しているようだ。といういわけで、さらなる活況の予感。ちなみに、1998年にスモールワールドネットワークを提唱したWattsは、脳科学へのグラフ理論の応用の可能性を予見しており線虫の神経構造の解析を行っているが、それ以上は手をつかなかったことを振り返って、最大の失敗だったと述べている。

で、こんな前置きはいいとして、この実験のテーマも従来通り、脳の「機能的」ネットワークが、「スモールワールド構造」および「スケールフリー構造」を示しているかという問いだ。従来の報告では、皮質内には確かにhub-likeな機能的領域が存在するものの、degree distributionが明らかなベキ乗則を示すようなscale-free構造は今のところしっかりとは確認されていない。また、脳の機能的ネットワークがスモールワールド的でることを示したAchardらの研究はinter-regional connectivityを調べたもので、解析に使用したノード数は90個と少なく、そもそもregionの決定プロセスに恣意性が入っていることが問題だった。そのため、この実験では、volxe-basedの解析を行って、このような恣意的なプロセスを排除した上で、脳の機能的ネットワークがどのような構造を示すのかを調べている。

以下のような手順。

まず、彼らは3TのfMRIを使って、28の健常被験者でresting-state下のBOLDを記録した。次に、BOLDのcorrelationからconnectivity matrixを作成する。さらに閾値 (T)とaverage connection degree (k)を設定し、この二つのパラメーターを少しずつ変化させることによってできるグラフ(Gnet)に対するネットワーク解析を行う。ちなみに、Tを少しずつ増やすか、もしくはkを減らすと、エッジを一本ももたない孤立したノードが出現してしまうが、これらは最終的なネットワーク解析から除外するようにしており、またpost hocの解析で差がみられないことで、そのプロセスを正当化している(これは、Achardらが採用したefficiencyを用いれば解決する問題ではあるのだが)。その後のネットワーク解析に用いられるパラメーターは、C(Clustering coefficient)、L(Characteristic path length)などである。これらは、ランダムネットワーク(connectivity matrixをシャッフルして作成される)との比(λ、γ)で評価され、最終的にスモールワールド性の指標であるσを算出する。数学的には、このσが1より大きいと、グラフがsmall-worldnessを示すことを意味する。また、この実験では各ノードのdegree distributionを調べ、ネットワークがscale-free性を示すかどうかも解析している。ちなみに、これらの解析プロセスは、Stamらが普段からEEGやMEGを用いた実験で行っている解析プロセスとほとんど変わりがない。

結果としては、広い範囲のTおよびkに対して、γ(ランダムネットワークとのclustering coefficientの比)が1より大きく、λ(ランダムネットワークとのcharacteristic path lengthの比)がほぼ1であり、したがってσ(γ/λ)は1よりも大きかった。これは、脳の機能的ネットワークがスモールワールドを構成していることを示している。また、degree distributionに関しては、ベキ乗則(exponentは約2)に従うことが確認されており、scale-free構造をもつことが示されている。topography上は、両側のthalamus、superior temporal lobe、posterior cingulate cortex、precuneusなどがhub-like regionであった。これらの、parietalもしくはparieto-temporalが落ちていることを除けば、この実験で得られたhub-like regionはAchardらの報告と大部分重なってくるのは、興味深い。

脳の機能的ネットワークがscale-free構造を示すという結果は、Achardらの報告とは矛盾する。その理由として、Achardらはinter-regional connectivityを調べているが、この実験ではvoxel-balsedの解析を行うことによってinterおよびintra-regional connecitiyの双方を調べているという違いに起因しているのではないかと考察している。

僕らの脳がsmall-world構造とscale-free構造の双方をそなえているという予測は、直感的にいってとてもリーズナブルだと思われる。

スモールワールドネットワークは、ネットワークのinformation segregationとinformation integrationに最適な構造をもつ。つまり、僕らの脳のように多数の心的機能が局在化しつつも、大規模な統合を可能にするネットワークにとって、現在知られている中では最も最適な連結構造だ。

また、スケールフリーネットワークは、少なからぬhubの存在を介して情報の過剰な収束を回避することによって、infomational flowの効率化を実現する。また、ネットワークに対するランダムな攻撃に対して頑健であることもスケールフリーネットワークの大きな特徴である。一方で、hubを狙った攻撃に対しては脆弱性を示す。これらの特徴も、僕らの脳の機能や臨床的経験からすれば、至ってリーズナブルな結果と思われる。

最終的に、これらのスモールワールド構造およびスケールフリー構造の双方を兼ねそなえたネットワークは、"maximum communication efficiency and minimum wiring cost"を実現する、機能的観点、進化的観点からみて非常に魅力的なネットワークモデルであると言えるだろう。

ちなみに、僕の興味は、SchizophreniaやAlzheimer病、Autismでは、脳のマクロなネットワーク構造がどのように変化し、認知障害とどのような関係をもつかという問いだ。思いつくままに素朴に言えば、

Alzheimer病:ネットワークのノード数の減少(完全にランダムではない)→Clustering coefficientの低下、characteristic path lengthの増大、synchronizabilityの低下

Schizophrenia:shortcutやlong-range connectionの減少やdopamine dependentなspike-timing-depedent plasticityの障害などによるネットワークのrandomization→Clustering coefficientのわずかな低下、characteristic path lengthの低下/増大、synchronizabilityの低下/増大(おそらく病型によって異なる)

Autism:local connectivityの増大とpruningの障害によるノードおよびエッジ数の増加→Clustering coefficientの著明な増加、相対的にcharacteristic path lengthの増大、synchronizabilityの低下

というようなイメージだが、どうだろうか。

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コメント

わるねこさん、こんにちは。Schizophreniaの場合、全体的なsynchronizabilityというよりも中脳被蓋野から側坐核に至るドパミン経路周辺のsynchronizabilityの局所的な異常というのはどうでしょうか?ただsynchronizabilityは大脳皮質だけの話ですかね?あんまり脳の深部の回路には適応できない話?

投稿: ykenko1 | 2008年10月 8日 (水) 18時37分

ykenko1さん
なるほど、僕はグラフ全体にばかり目がいっていましたが、中脳被蓋野から側坐核に至るドパミン経路周辺を部分グラフと考えることもできそうですね。synchronizabilityは、とくに部位による制限はありません。ただし、この部位のsynchronizabilityは、どうなっているのでしょうか?ただ、synchronzablityはグラフもしくはサブグラフ全体の連結構造によって決まるので、低下/亢進どちらもありえそうですね。もしくは、synchronizabilityという一元的なパラメーターでは捉えられないのかもしれませんね。

投稿: わるねこ | 2008年10月 8日 (水) 20時26分

blogを拝見しております。
ご講演の予定がありましたら、教えていただけますでしょうか。

投稿: | 2008年10月10日 (金) 15時08分

こんにちは。
しばらくはオープンな講演の予定は入っていないのですが(当分、実験にせ専念しようと考えています)、あればブログ上で告知しますね。

投稿: わるねこ | 2008年10月11日 (土) 21時21分

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