information integration theoryその後
最近、読んだ論文。
Tononiのinformation integration theoryに関するreview。
Biological Bulletinという雑誌(初めて知ったが、創刊は1899年というから、案外伝統のある雑誌だ)に掲載された26ページに及ぶかなり重量感のある論文。provisional manifestとあるように、シミュレーションなどによる実証可能な内容というよりも、彼自身が抱いている意識観の表明のようなものと言える。
前半は、主に数理モデルの解説にあてられている。彼自身が定義する情報とは、各ニューロンの発火という要素的な情報ではなくて、無数のニューロンの発火パタンからなるシステムのある時点での状態が、そのシステム内部において、また時間軸上でどのように差異化されているかという、メタ情報のようなものだ。Tononiはこれまで繰り返し、この仮説について述べているが、この論文の中で目新しい点と言えば、従来の彼の仮説が意識の量的側面(統合と複雑性)に焦点を当てたものであったのに対して、この論文では、qualia spaceという概念を用いて意識の質的側面に踏み込んだ点だろう。このqualia spaceとは、ネットワークのあらゆる可能的状態を軸とする多次元空間で、qualia space上の点はネットワークの可能的状態の確率分布を示す。また、ある点から別の点へのベクトル(q-arrows)は、ネットワークのconnectivityによって決定づけられるinformational relationshipを指し示しているという。また、ある体験は、complex内のinformational relationshipの組み合わせによって形成されるshape(Q)によってspecifyされるという。基本的な概念は、Edelmanとともに提唱していたdynamic core hypothesisでも顔をのぞかせていたが("Universe of consciousness"を参照)が、今回はそれを一挙に拡張したように思われる。freeの論文なので、詳細は実際に読んでみてほしい。
後半の内容は、何だかものすごくて、もはやエンピリカルな話はほとんど姿を消して、ひたすら思考実験とメタファーでもって「妄想」と言われかねないようなspeculativeな議論を展開している。たとえば、「photo-diodeやworld-wide-web、さらにはリンゴは意識をもつか?」という話や、「個体間で異なる体験を普遍的に記述するような言語は可能か?」というような話が出てくるのだ。従来から、Tononiは、information integrationという概念でもって、高い統合能(Φ値)をもつシステムは意識をもちうるということを言っているので、Ned Blockの「こうもりであるとはどのようなものか?」という問いにあるような、ヒトと全く異なる構造をもったシステム内に生じる体験でさえも、この仮説の枠組みで記述できるのだと主張している。
Tononiは、意識の科学においては、実証的な実験とともに、個々のデータを包括的に説明するための理論的枠組みが必要だと、主張している。彼自身の考えによれば、その枠組みとは数学に他ならないということだ。実際に、Tononiのグループには、睡眠やschizophreniaという方向性からMassiminiやFerrarelliなどのようにTMSやEEG、MEGを用いた実験を行う研究者たちと、Tononi自身やBalduzziのように数学に長けて、意識に関する概念的な理論展開を進めている研究者という二つの流れがあるように思える。
新たな汎心論ともとられかねない、かなりradicalな内容なので、意識の科学に関する厳密なデータに基づいた予測というよりも、一種のscience fictionという心構えで読むとよいと思われる。また、途中で時間を空けて再読し始めたら、全く内容が理解できなくなってしまったため、一挙に読むのがよいかと。
今日の音楽:New Order/Blue Monday
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コメント
紹介ありがとうございます。読んでみます。
投稿: ykenko1 | 2009年1月16日 (金) 08時58分
ykenko1さn
お久しぶりです。
かなりぶっとんだ内容の総説でした。特に、後半からは圧巻としか言いようがないです。
でも、僕はこういう話好きです。
投稿: わるねこ | 2009年1月16日 (金) 22時54分
こんばんは。
Boads of canadaをユーチューブでこの間聞いてみました。
頭がぐるぐるまわってしまいましたが 色んな色がミックスされた音で、ハイセンスなのだなあと感じました。
クラシックはききますか? 自分はもっぱらモーツァルトかピアノ曲全般です。わるねこさんのように陸上とかよくわからないけれど、ピアノ曲ききながらジョギングしてるくらいです。ノリノリで結構走れます。
Bossa novaは最近遠のき。。
日本メーカーですが、
DHCのリップクリームもオススメです。
投稿: うさぎ | 2009年1月17日 (土) 00時23分
クラシックは、色々と教えてもらって、少しずつ聴き始めています。
ジョギングするときは、太鼓の音楽ばかり聴いてます。
投稿: わるねこ | 2009年1月19日 (月) 23時39分
プロフィールの猫に胸がきゅーっ としましたよ。かわいい! むかって右の子は 家のニケの顔にそっくり!模様はシマにそっくり!!!
猫いいですね。
投稿: ウサギ | 2009年1月23日 (金) 23時51分
こんにちわ。いつも興味をもって覗かせていただいています。
私はテクノはあまり聴かないのですが、ロックもいいですよ。最近はLEO今井がお気に入りです。
またお邪魔します。
投稿: 東の島 | 2009年1月30日 (金) 17時58分
東の島さん
コメントどーもです。
このブログでは、テクノ、音響、アンビエントばかりに偏っていますが、僕もロックは好きです。
My spaceでLeo今井氏のページをみたら、影響を受けた音楽が結構重なってました。
投稿: わるねこ | 2009年1月30日 (金) 18時56分
わるねこさん
即レスありがとうございます。
私は一昔前のオルタナブームからスマパンの大ファンで、それからギタリストのジェームス・イハの虜になり、LEO今井に辿り着いたという経緯があります。質の良いミュージシャン同士が互いに引き付けられて、synchronizeしていくのかなと思うと何だか不思議です。
私はおそらく、わるねこさんと同世代の同業者です(不勉強過ぎて、同業と名乗るのも恥ずかしいのですが)。
またちょこちょこお邪魔しますね。
投稿: 東の島 | 2009年1月31日 (土) 12時20分
東の島さん
どもです。同業の方なんですね。もしかして、お会いしたことが?
ちなみに、オルタナブームの頃は、主にUKものばかり聴いていましたが、僕もスマパンは大好きで、Melllon Collie〜を出した直後に来日した際にはライブにも行きました。イハは、再結成したスマパンには参加してないみたいですね。今井氏が、Elliot Smithにリファーしてましたが、ミュージシャンというより詩人に近いような、あの独特な佇まいに妙に納得しました。
投稿: わるねこ | 2009年2月 1日 (日) 01時44分
わるねこさん
初代スマパンの来日ライブに行かれたのですか!何とも羨ましい限りです。最近再結成したスマパンには正直ちょっとがっかりしているのですが、LOUDNESSのように(笑)原点回帰して、イハも再加入を…など妄想着想じみたことを考えたりしています(イハもビリーも可能性は0と言っているようですが)。ともあれ、わるねこさんと音楽の趣味のスペクトラムが同じようで、何だか嬉しいです。
残念ながら、これまでわるねこさんにお会いしたことはありませんが、博学多才な方なのだろうなと想像しながら、いつもブログの更新を楽しみにしています。これからも無理のない範囲で、末長く続けてくださいね。
投稿: 東の島 | 2009年2月 1日 (日) 14時53分