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2009年11月22日 (日)

Randomnessについて

Huettel SA, Mack PB, McCarthy G.
Perceiving patterns in random series: dynamic processing of sequence in prefrontal cortex.
Nat Neurosci. 2002 May;5(5):485-90.

最近は、conscioiusnessそのものよりも、implicitもしくはsubliminalなプロセスに興味があり、色々と調べていた。少し古めではあるけど、最近読んだ中で最も印象に残った論文がこれだ。

前置きとして、次のような実話がある。イタリアのベネチアでは、1から90までの数字を選択して賭けるという数字選択式宝くじが行われているという。ある時期、この宝くじで、「53」という数字がしばらく出ていないことに気付いた人たちがいた。そして、その後ほぼ2年間にわたって「53」が一度も出なかったことから、「53」が出る確率が回を重ねる毎に高まっていると多くの人が感じたという。その結果、この不出の「53」を狙って熱狂した人が続出し、その中には家族の貯金を無断でつぎ込んだり、妻と息子を撃ち殺して自身も自殺を図ったものもいた。2年後にやっと「53」が出る日までに国内でつぎ込まれた金額は35億ユーロにも及んだという。

当然ながら、このくじで各数字が出現する確率は全て均等である。そして、次の当選結果が過去の結果によって影響を受けることなど決してない。したがって、「53」という数字が出ていないからといって、「53」の出現率が上昇するなどということはあり得ない。それでも、多くの人が「53」という数字が目下のところ「hot number」であると信じてしまい、莫大な金額を費やしてしまったのだ。

ここまでではなくとも、多くの人が同様の体験をしたことがあるのではないだろうか。たとえば、コイントスを連続して行った場合に、表が連続して5回出たとしよう。このとき、6回目に表が出る確率も裏が出る確率も、同じ1/2である。しかし、多くの人は6回目に裏が出ると予測してしまう。コイントスの連続試行は、各事象が互いに独立したベルヌーイ試行(2つの値をとる独立な確率変数からなる確率過程)であるから、このような「偏った」予測はヒトの意思決定の文脈においては「誤謬 fallacy」として捉えられる。また、ランダムな事象に対する主観的な確率の偏りは、実験環境だけでなく、カジノやスポーツなどの現実的な状況でも確認されている。

ある事象に対する主観的な確率と実際の確率との間にみられる解離については、1825年にラプラスが指摘したのが最初であると伝えられている。以来、ヒトがランダムネスをどのように捉えているのかという議論は、現在まで続いている。認知心理学ではマルコフ過程などでモデル化してはいるものの、現在のところ結論めいたものはみられない

一見したところ僕たちの周囲は、ランダムな現象に満ちている(そうでないという人もいるかもしれないが)。上で述べたような事態は、ランダムな事象に対して僕たちが非常に頑健なバイアスをもっていることを示している。言わば、ランダムな現象の中にも一定のパターンを半ば自動的に見いだしてしまうのだ。心理学者の中には、僕たちが事象系列の中に「純粋」なランダムネスを知覚したり、あるいはランダムなシークエンスを自ら生成することなど不可能であるという意見もある。実際に、被験者にベルヌーイ過程を作らせてみると、同一の結果が連続する頻度が余りに少なく、かわりに二つの事象が交代する頻度が多くなってしまうという傾向が報告されている。

以上で前置きは終わりとして、本題に入ろう。この論文は、ベルヌーイ試行を延々と提示し、key pressでレスポンスさせた際の反応時間とBOLDを計測した実験だ。実際の実験では、丸と四角からなるbinaryな試行系列を提示するのだが、特筆すべきは1800回もの試行を連続して提示している点である。恐ろしくシンプルであるが、これは、結果の解析や被験者の負担から考えれば、実際の実験で行うには非常に大変なことだ。しかし、提示した事象系列が(限りなく)ランダムであると宣言するには、これ以外の方法はあり得ないのだろう。

この実験で提示したようなベルヌーイ過程では、しばしば同じ結果がn回にわたって続くという"streak"が偶発的に出現する。当然、被験者は、提示される系列がランダムであることを告げられてはいる。しかし、streakのように秩序だったパターンが局所的に出現すると、ランダムだという前提がいとも簡単に破られてしまう。高頻度刺激と低頻度刺激を混ぜたoddball taskの反応時間の結果から予測されるように、この実験でもstreakが長く続けば続くほど、それが終了した場合(violation of streak)の反応時間が延長していた。また、程度の差はあれ、同じ結果が連続するrepeating pattern(○○○○○○)でも、丸と四角が交代して出現するalternating pattern(○□○□○□)でも同様の結果であった。

fMRIでは、violation of repeating patternの際には、middle frontal gyrus(MFG)、inferior frontal gyrus(IFG)、inferior frontal sulcus(IFS)、anterior cingulate gyrus(ACG)、insular cortex(INS)、basal gangliaなどで強い活動がみられた。また、violation of alternating patternの際には、MFG、IFG、IFD、ACGなどで強い活動がみられたが、basal gangliaが賦活されたのはviolation of repeating patternの場合だけであった。また、ROI analysisでは、right IFSのBOLDレスポンスは、streakの長さとmonotonicに相関していたという。

この実験は、神経機構も含めて、僕らに生得的にそなわったバイアスの一側面を検証したものであることは疑い得ないだろう。注意すべきは、この実験は、デザイン上、ランダムな事象に対するpredictionというよりは、perceptionの過程をみている点である。また、そこでみられるプロセスは、implicit learningと似ていなくもないが、提示した事象系列に隠れた規則が存在しないという意味では、両者は本質的に異なるものだ。また、この実験ではstreakという局所的なパターンに対する学習と知覚の過程をみている点も異なる。にも関わらず、implicit learningの際に賦活される領域と重なる部分が少なくない。つまり、implicit learningと同様のsubliminalかつautomaticな学習過程が、このような単純な事象系列に対しても進行しているという可能性は大いにに考えられるだろう。

この実験の結果をいたずらに敷衍することは避けたいが、やはりそうしてしまうのが僕の癖のようだ。なので、ここからはややspeculativeに。

ヒトがランダムネスに対して示す強いバイアスは、従来の意思決定の文脈で指摘されてきたように、はたしてmaladaptiveなものなのだろうか?このようなバイアスは実験環境だけでなく、実際に生活においてもみられる頑健な傾向であり、heuristicsの文脈で考えれば、むしろ自然環境においては何らかの適応的な意味をもっていたという可能性も十分に考えられるだろう。ヒトを含む動物は、事象をただ知覚するなどということはなく、常に将来の予測を行っている。言わば、将来に対する「構え」は、常に生成され続けているのだ。そうでなければ、混沌とした世界を生き抜いていくことは、難しくなるだろう。そして、そこで行われる構えや予測は、潜在的な場合もあれば、(今回書いたように)顕在的な場合もあろう。今のところ確かめようがないが、このようなバイアスがむしろ適応を高めるような何らかの事態が存在するかもしれない。また、コイントスのようなベルヌーイ過程は、動物が暮らす環境から考えればむしろ特殊な事態で、世の中で起こるほとんど事象は互いに相関し合っていると考えた方が自然かもしれない。進化心理学の分野でどのようなことが言われているかまだ調べてはいないが、興味深いところだ。

ちなみに、このブログを更新していないと、ときどき、知り合いから「生きているか?」と聞かれたりするが、えーと、ちゃんと生きています(笑)。興味の方向性が少し変化したのと、諸々の事情で2ヶ月ほど更新しない期間が続いたが、これからもときどき更新していく予定だ。この間もコメントをしてくれた人に、感謝している。

最近の音楽:
Library tapes/Feelings For Something Lost(CD)
Library tapes/Alone In The Bright Lights Of A Shattered Life(CD)
Library tapes/Sketches(CD)

最近は、Library tapes、Goldmund、Max Richter、Harold Budd、Peter Broderick、Hauschkaなどのコンテンポラリーなピアノソロの音源ばかり聴いている。

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