2007年7月 6日 (金)

Φ

最近読んだPNAS論文。

Tognoli E, Lagarde J, DeGuzman GC, Kelso JA.The phi complex as a neuromarker of human social coordination.Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 May 8;104(19):8190-5.

以下前置き。僕たちと他者の間にみられる社会的な相互作用は、決して一方向のプロセスではない。僕たちは、他者から受け取る様々な知覚刺激をもとに、状況や文脈に見合った行為を産出する。そして、僕らが産出した行為は、次の瞬間には他者にとって社会性を帯びた知覚刺激となり、他者の新たな行為の産出を導く。このような双方向的な相互作用が連鎖的に続けば、次第に僕らと他者の行為は「チューニング」され、他者の行為との間に何らかの整合性が生まれる。このような連鎖的なプロセスを、Galleseは、"embodied simulation"とも呼んでいる。このような個体間で生じる創発的なプロセスには、知覚ー運動系のカップリング、mirror neuron systemなどが密接に関わっていると考えられている。
これまで比較的単純な課題下でのfMRI実験やsingle-unit studyは色々と行われているが、real-timeな社会的相互作用下での神経活動のパタンを調べたものはまだまだ少ない。

これは、Kelsoらのグループの実験。

2人の被験者に周期的な指の運動を行わせる。visual contactを欠いた条件では、遮断パネルを用いて相手の運動を見えないようにさせる。この条件では、2人の指の運動の位相関係は、終始一定せずバラバラである(independent, unsynchronized behavior)。しかし、相手の指の運動を見ることができるvisual contact有りの条件では、2人の被験者の指運動の位相関係に興味深い変化が生じる。最初は指の動きもindependentで、位相関係もバラバラだった両者の運動が、自然に同期し始め、最終的には安定した位相関係(in-phaseまたはanti-phase)を維持する運動(synchronized behavior)に移行(transition)する。このようなこのような個体間の相互作用の際にみられる創発的な現象をKelsoらは、social coordinationの基本的な要素と捉えている。この実験は、このようなreal-timeなactionのcoordinationと、脳波(high resolution EEG)上で記録されるoscillationとの相関関係を調べた実験だ。

α波、μ波は、指の運動に際して、著明な減衰がみられた。μ波は運動の準備や遂行の際に減衰、脱同期することが知られているので、これらは従来の知見の通りだ。

これらとは別に、KelsoらはΦ complex(9.2-11.5Hzの間にΦ1とΦ2という2つのピークをもつ)と名付けられたoscillationに注目している。Φ1の出現は、independent behaviorと相関し、Φ2の出現はsynchronized behaviorと相関していた。つまり、Φ complexのパタンが、effectiveなcoordinationとineffectiveなcoordinationの出現に対して有意に相関していたというのだ。

ちなみに、Φの主なsourceは、right centro-parietal regionであり、mirror-neuron systemを構成する領域の一つである点が興味深い。
あくまで推測の域を出ないものの、real-timeなcoordinationの際には、運動系および知覚系の信号が、centro-parietal regionあたりにΦ波として収斂してくるのかもしれない。mirror-neuron sytemが、模倣や行為の観察といった一方向的な社会的認知に関係しているだけでなく、real-timeでdynamicなinterpersonal coordinationとも関係している可能性があることを示したという意味で重要。

今日の音楽:Beck"Everybody gotta learn sometimes"
Korgisの名曲のカバー。映画「エターナルサンシャイン」の最後のテロップで流れる音楽。

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2006年7月27日 (木)

最近

8月中旬に無理矢理休みをとって、下北半島の恐山、秋田の鶴の湯に行ってくる予定。
イタコが集まる大祭とは時期がずれてしまうが、純粋に観光目的。

Rudrauf D, Lutz A, Cosmelli D, Lachaux JP, Le Van Quyen M. From autopoiesis to neurophenomenology: Francisco Varela's exploration of the biophysics of being. Biol Res. 2003;36(1):27-65.

Varelaとともに晩年まで共同研究を続けていたRudrauf、Lutz、Le Van Quyenらが、Varelaの死後にチリの生物学系の学術誌に投稿した論文。生物学の領域におけるVarelaの主観性や一人称性、意識などに関する理論の詳細と変遷を網羅した内容で、非常にボリュームのある論文。LENA時代のVarelaの共同研究者や教え子によって書かれているが、ほぼVarela自身の思想と言ってよいと思われる。オートポイエーシス、生物学的自律性の諸原理、現象学から神経現象学、身体化、エナクトメントなどについて非常に詳しく述べられている。Varelaの他の論文でみられない重要な点は、Edelmanの理論の中核とも言える「Dynamic Core仮説」の概念を、脳科学からより一般的なシステムの概念に拡張しようとしていた点である。「していた」、とういうのは、Varela版Dynamic Core仮説が形あるものとして世に出る前に、Varelaはこの世を去ってしまったからである。

ちなみに、最近Varela関連の書籍をいくつか購入したのだが、そこにSpensor Brownの算法に関する記述があった。僕はSpensor Brownの自己言及性の算法については全くのど素人で、今のところそれほど興味も無いのだけれども、Varelaは1970年代から1980年代にかけてSpensor Brownの算法による自己言及に関する論考をいくつか書いており、自身のオートポイエーシス論にも応用されている。オートポイエーシスにおけるSpensor Brownの算法は、ルーマンのオートポイエーシス理論に顕著に現れているらしいが、読んだことが無い。そのSpensor Brownの算法で、自己言及に必須の概念として"reentry再入力"が出てくる。同じく自己言及するシステムとして、Edelmanのdynamic coreでもre-entryという概念が出てくるのだけれども、何らかの関係があるのだろうか?ちょっと気になった。


Le Van Quyen M, Khalilov I, Ben-Ari Y.he dark side of high-frequency oscillations in the developing brain.Trends Neurosci. 2006 Jun 20

これも、Le Van Quyenによるoscillationの"dark-side(暗黒面)"に関するレヴュー。主に脳の発達段階におけるoscillationの空間的なマッピングの形成、周波数帯域の変化と、てんかんの生成との関係について述べられている。Lutzにせよ、Le Van Quyenにせよ、Varela亡き後も、同門の研究者はいい仕事をしていると思う。

今、読んでいる本

竹内外史「集合とは何か-はじめて学ぶ人のために」(講談社)
難波完爾「数学・基礎の基礎」(海鳴社)
→寝る前に少しずつ‥。

町田康「猫にかまけて」

今日の音楽:V.A."Pop Ambient"(CD)
ambientのグッドオムニバス。ドラムレスのパチパチ、ドヨーンという音景は、クソ暑い部屋の体感温度を1〜2℃くらい下げてくれる。

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2006年1月14日 (土)

spontaneous activity of the brain.2

つづき。脳の自発的活動について。最近よくsynfire chainという言葉を目にしていたが、synchronizationといってもネットワークにおける活動伝播の効率性から考えるという点が面白いと思っていた。
以下、まずsynfire chainについて手元の資料で少し調べてみた。

Abelsらはサルの前頭皮質からの多細胞同時記録を行い、3つのニューロンの発火が1msec以下の精度で、ある一定のパターンで繰り返し生じることを確認した。しかも、お互いの発火の間隔は数百msecと大きく、偶然でこのようなスパイクが生じるとは考えられないものであった。このように数百msecの間隔がありながら、精度良く時間相関したスパイクパターンを説明するためにAbelesらはsynfire chainという概念を導入した。
ニューロンシステムでは複数のニューロンから一つのニューロンに収束するconvergenceと、一つのニューロンから複数のニューロンに投射するdivergenceとが共存する。このような構造を有するネットワークにおいて活動が減衰せずに順繰りにニューロン群を伝播するためにはニューロン群の活動に何らかのパターンが存在するはずである。Abelesらは上記の結果を踏まえ、多数のニューロンが十分に高い精度で同期して次のニューロンに入力し複数のニューロン群を同時期に発火させる必要があると考え、このようなネットワーク特性および活動の伝播パターンをsynfire chainと名付けた。

Science2つ目の論文。前から読もうと思っていたけど、なかなか読む時間が無かった論文。
読んだら面白かった。

Ikegaya Y, Aaron G, Cossart R, Aronov D, Lampl I, Ferster D, Yuste R.Synfire chains and cortical songs: temporal modules of cortical activity.Science. 2004 Apr 23;304(5670):559-64.

1.まずマウスの一次視覚野から得たスライスの約20個の細胞でintracellular recordingを行い、EPSCを記録。その結果、1msec以下の精度で繰り返されるmotifが確認された。

2.次にネコの一次視覚野で(視覚刺激を与えずに)in vivoでintracelullar recordingを行った結果、msecの精度で繰り返すmotifを確認した。これらは最長で2sec持続し、間隔は数分にも及んだ。

3.さらに97個のマウスの一次視覚野および前頭皮質から得たスライスでCa-imagingを数百個の多細胞のCa電流を同時測定したところ、一定の空間、時間的パターンをもって活動電位(正確に言うとCa電流だが活動電位とidenticalであることが確認されている)が続くsequenceの存在が確認された。これらはintracellular recordingで確認したmotifと同じcircuitの活動によるものと確認された。

4.さらに大きな時間スケールで解析したところ、上記のsequenceが一定のオーダーで規則的に繰り返されることが確認された(例えばA1-B1-C1-D1‥というように)。かれらはこれをcortical songsと名付けた。それぞれのcontical songsは2〜8個のsequencesの配列から成り、一つのsequeceは複数のcortical songsに参加していた。これらのcortical songsは発火率とは相関せず、synchronicityとは相関していた。

5.dopamineを投与した前後でスパイク事象のincidenceに変化はみられなかったが、sequencesやcortical songはdepressされた。これらのエフェクトはD1agonistで抑制され、D1antagonistによって同様の結果が得られた。(ここでfunctional dysconnectionとしての Schizophreniaにも触れている)

以上の結果を踏まえると、一定のつらなりで活動するsynfire chainがあり、さらにこれらのchainがmoduleとなってsequentialに配列することによってhigher orderなtemporal structureであるcortical songsを成す
のである。著者はcortical songをいくつかのパートの時間的な配列によって特徴づけられるbird songになぞらえている。そして、これらはin vitroでもin vivoでも確認されたことから、cortical circuitにintrinsicな性質であるとしている。Abelsらはたかだか3つの細胞だったので、数十個から数百個の細胞を同時記録したこの論文はsynfire chain、さらに上位の活動パターンの存在に説得力をもたせることになる。


著者は僕も著書を読んだことのある日本人の脳科学者。僕の頭の良い人のイメージはこういう人。その本は慶應New York高の学生に脳科学の講義をするという内容であったが、前評判通り非常に面白い内容であった。

脳の自発的活動は決してランダムではなく、synfire chainという時空間的パターンがあり、これを要素としてさらに上位のパターン(原著ではhigher order grammarとある)が形成される。皮質のあらゆる細胞がこのようなパターンに参加しているのかもしれないし、脳はこのようなパターンを刺激の無い環境下で自発的に形成しているのだろう。さらに、cortical songよりも上位のパターンだってあるかもしれない。
こうなるとSchizophreniaではどうなっているのだろう?という疑問がでてくる。直感では、細胞やシナプスレベルでの異常はあるにせよ、機能的異常が顕在化するのはこのような上位の情報表現パターンだろうという気がする。

色々と勉強したくなったので、Abelesの名著、Corticonicsを購入。

今日の音楽:Jephté Guillaume"The Prayer"
ハイチアンのアーティスト。位置づけるなら、Body and SoulとかSpirtual Life Musicとの関係が深い、N.Yディープハウスの人になるのか。曲によってはコテコテでついていけないものもあるけど、このトラックは僕にとってまさに奇跡のような曲。言葉にするより絵にした方が早いatomosphericな音景。太平洋の島のビーチで、海に月が上った頃、全然知らない国の旅人と聴いてみたい。

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2006年1月10日 (火)

Spontaneous activity of the brain.1

脳の自発的な活動について。最近たまたま読んだScience誌の2つの論文が興味深かったのでメモ代わりに紹介。

まず一つ目。

Tsodyks M, Kenet T, Grinvald A, Arieli A.Linking spontaneous activity of single cortical neurons and the underlying functional architecture.Science. 1999 Dec 3;286(5446):1943-6.

大脳皮質、たとえば視覚野などは視覚刺激が無い状況でも自発的な活動を続けていることはよく知られている。これらの自発活動spontaneous activityはしばしば確率論的stochasticな現象で、noiseや背景活動として捉えられることもあり、神経システムの活動における機能的な意味はほとんど分かっていないのが現状である。しかし、神経活動の同期現象などのように従来は無秩序と考えられていた自発活動にマクロな視点での秩序が隠れていたことが明らかにされており、自発活動=ノイズという単純な図式は徐々に疑いの目を向けられ始めている。

ArieliはIsraelの脳科学者。本論文を無理矢理に要約すると、「視覚刺激ありの条件と刺激なしの条件下でsingle unit recordingとreal-time optial imagingをネコの視覚野で同時記録することにより、single neuronの自発活動spontaneous activityの発火率が広範囲にわたるneuronal populationのongoing activityの内部状態に依存していること、これらの自発活動のspatial patternが外部刺激を与えられたときによって生じるevoked activityや方位選択性マップなどのfunctional architectureと類似していることを示した」論文である。

彼らはまず、ネコの大脳皮質におけるevoked activityからfunctional map(この実験の場合は方位選択性マップ)を同定した。さらに電位感受性色素を用いたreal-time optical imagingと複数のsingle unit recordingを同時記録することによって、同じ部位のneuronal population activityとsingle cellの自発活動の発火率との相関を解析した(real-time optical imagingは、電位感受性色素を用いてmembrane potentialの変移を計測する手法で、測定部位のneuronal population activityをほとんどreal-timeといえる時間分解能で記録することができる)。ここで、彼らは視覚刺激によって活動電位を生じた時間内におけるevoked activityの全記録を加算・平均化することによって神経細胞が最も高い発火率で活動する際の内部状態を定義し、preferred cortical state:PCSと定義している。このように導きだされたPCSのパターンは方位選択性マップと類似していることが予想されるが、実際にそのような結果が得られた。
続いて、彼らは統計解析(この辺の詳細はよく分からない箇所もあったが)によってneuronal populationのongoing activityはPCSに類似したパターンを有していることを示した。この結果は神経の自発活動は無秩序なプロセスではなく、方位選択性マップなどのfunctional architectureに依存していることを示唆している。さらに、視覚刺激の有無によらず同じ内部状態が見いだされたことは、外部刺激に対する皮質の反応が単なる感覚入力情報のflowによって決定されているのではなく、外部刺激によるflowがダイナミックにswitchし続ける無数の内部状態から特定の内部状態(PCS)を選択する役割を担っているのだと考えられる。さらに神経細胞の発火率が高くなると、よりPCSに近いパターンになることも示されており、活発に活動しているときの神経活動のパターンはPCSに収束していくという可能性も示唆されている(この意味でPCSはアトラクターと言えるかもしれない)。そして、繰り返すがこのPCSはfunctional architectureと非常に似ているのである。
著者は上記の結果から、自発活動は無秩序なノイズではなく皮質のネットワークと密接にリンクした特定のパターンを有する活動であり、究極的には何らかの機能的な役割を担っている可能性もあるのだというような考察を書いている。大体このような内容。日本語に難あり。

「環境刺激は脳があらかじめ無数に創出している内部状態の一つを選択するだけである」という可能性は面白いと思う。両立は難しい思っていたアフォーダンスと神経生理学が矛盾なくつながるかもしれないという希望がある。
また、自発活動自体は情報を担うcareerなのではなく、情報処理のmodulatorなのかもしれないという可能性もあるだろう。


今日は既に力つきている。続きはまた明日書こう。

今日の音楽:Richie Hawtin"DE9:Transition"(DVD)
連休を利用して自宅に5.1chサウンド+プロジェクターのヴィジュアルサウンドシステムを構築したので、この作品を改めて聴いてみた。2ch再生ではループ素材の時間的な同期しか体感できなかったが(それでもその精密さに驚いた)、5.1ch再生ではループの反復が空間的に同期していくのが体感できる。さらに音景とマクロに同期した映像もあるので、結局は感覚モダリティを超えて同期するのである。こんな作品を人工的に作り出すなんてRichieは恐ろしい。そんなものは、僕らの脳だけで十分なはずだ!
とはいっても、よくよく考えてみると同期は音楽の最も原始的な特性であるはずだ。オーケストラの多重演奏では異なる楽器が同期するし、バリ島のケチャでは人の声と太鼓が同期する。ダンスだって音とボディムーブメントの同期として捉えられる。この意味で、打楽器はchattering cellならぬchattring instrumentsと言えるかもしれない。原始的であるという意味でも海馬にアナロジーを感じてしまう。
ここまで書いて、脳の活動を音楽に喩える比喩はきわめて伝統的に繰り返されてきたことを思い出した。
これまで読んだ多くの本の中で、脳はオーケストラに喩えられていた。しかし、脳には指揮者もいなければ、楽譜だってないだろう。オーケストラには外部からの撹乱もない。内在的な拘束条件の下(暗黙のルール)、各奏者やときにはオーディエンスとの関係(掛け合い)の中で曲が展開していくのだろう。次の瞬間に何が起こるか分からない音楽。そういう意味ではオーケストラよりもインプロビゼーションなジャズとかケチャの方に近いかもしれないなあ、などと思う。

Tsodyks M, Kenet T, Grinvald A, Arieli A.Linking spontaneous activity of single cortical neurons and the underlying functional architecture.Science. 1999 Dec 3;286(5446):1943-6.

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