Φ
最近読んだPNAS論文。
以下前置き。僕たちと他者の間にみられる社会的な相互作用は、決して一方向のプロセスではない。僕たちは、他者から受け取る様々な知覚刺激をもとに、状況や文脈に見合った行為を産出する。そして、僕らが産出した行為は、次の瞬間には他者にとって社会性を帯びた知覚刺激となり、他者の新たな行為の産出を導く。このような双方向的な相互作用が連鎖的に続けば、次第に僕らと他者の行為は「チューニング」され、他者の行為との間に何らかの整合性が生まれる。このような連鎖的なプロセスを、Galleseは、"embodied simulation"とも呼んでいる。このような個体間で生じる創発的なプロセスには、知覚ー運動系のカップリング、mirror neuron systemなどが密接に関わっていると考えられている。
これまで比較的単純な課題下でのfMRI実験やsingle-unit studyは色々と行われているが、real-timeな社会的相互作用下での神経活動のパタンを調べたものはまだまだ少ない。
これは、Kelsoらのグループの実験。
2人の被験者に周期的な指の運動を行わせる。visual contactを欠いた条件では、遮断パネルを用いて相手の運動を見えないようにさせる。この条件では、2人の指の運動の位相関係は、終始一定せずバラバラである(independent, unsynchronized behavior)。しかし、相手の指の運動を見ることができるvisual contact有りの条件では、2人の被験者の指運動の位相関係に興味深い変化が生じる。最初は指の動きもindependentで、位相関係もバラバラだった両者の運動が、自然に同期し始め、最終的には安定した位相関係(in-phaseまたはanti-phase)を維持する運動(synchronized behavior)に移行(transition)する。このようなこのような個体間の相互作用の際にみられる創発的な現象をKelsoらは、social coordinationの基本的な要素と捉えている。この実験は、このようなreal-timeなactionのcoordinationと、脳波(high resolution EEG)上で記録されるoscillationとの相関関係を調べた実験だ。
α波、μ波は、指の運動に際して、著明な減衰がみられた。μ波は運動の準備や遂行の際に減衰、脱同期することが知られているので、これらは従来の知見の通りだ。
これらとは別に、KelsoらはΦ complex(9.2-11.5Hzの間にΦ1とΦ2という2つのピークをもつ)と名付けられたoscillationに注目している。Φ1の出現は、independent behaviorと相関し、Φ2の出現はsynchronized behaviorと相関していた。つまり、Φ complexのパタンが、effectiveなcoordinationとineffectiveなcoordinationの出現に対して有意に相関していたというのだ。
ちなみに、Φの主なsourceは、right centro-parietal regionであり、mirror-neuron systemを構成する領域の一つである点が興味深い。
あくまで推測の域を出ないものの、real-timeなcoordinationの際には、運動系および知覚系の信号が、centro-parietal regionあたりにΦ波として収斂してくるのかもしれない。mirror-neuron sytemが、模倣や行為の観察といった一方向的な社会的認知に関係しているだけでなく、real-timeでdynamicなinterpersonal coordinationとも関係している可能性があることを示したという意味で重要。
今日の音楽:Beck"Everybody gotta learn sometimes"
Korgisの名曲のカバー。映画「エターナルサンシャイン」の最後のテロップで流れる音楽。
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